アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

第95回薬剤師国家試験 問9
シクロヘキセンの反応に関する記述の正誤を判定しなさい。

 

a 四酸化オスミウムと反応させた後、硫化水素で処理すると、メソ化合物が得られる。
b m-クロロ過安息香酸で処理すると、ラセミ化合物が得られる。
c ジボランと反応させた後、アルカリ性過酸化水素で処理すると、第3級アルコールが得られる。
d オゾンと反応させた後、亜鉛で処理すると、アルデヒドが得られる。
e 臭化水素と反応させると、ジブロモ化合物が得られる。

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薬剤師国家試験過去問題集 化学 アルケン

 

第95回薬剤師国家試験 問9 解答解説

 

★ アルケンの求電子付加反応

 

アルケンのC=Cはσ結合の上下にπ結合の電子雲が広がっているので、アルケンは電子豊富な構造である。
電子豊富なアルケンは求電子試薬と反応し、求電子付加反応を起こすことが多い。

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

 

◆ aについて
a 〇 シクロヘキセンを四酸化オスミウムと反応させた後、硫化水素で処理すると、メソ化合物が得られる。

 

aの反応はアルケンに四酸化オスミウム(OSO4)+NaHSO3(またはH2S)水溶液を反応させることによる、アルケンのsyn−ジヒドロキシ化反応である。C=Cに2つのOHがシン付加したアルコールが得られる。
なお、2つの炭素原子にOHが1つずつ結合したアルコールはグリコールと呼ばれる。

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

シクロヘキセンに対して四酸化オスミウム(OSO4)+NaHSO3(またはH2S)水溶液を反応させることによる、アルケンのsyn−ジヒドロキシ化反応では、主生成物は絶対配置が(R,S)で分子内に対称面があるのでメソ化合物である。
 ただ、同じ反応でも基質によっては立体異性体が生成することがある。

 

★ アルケンに四酸化オスミウム+NaHSO3(またはH2S)水溶液を反応させるジヒドロキシ化がsyn付加である理由
 アルケンに対してOSO4が付加する際、OSO4の2つのOが同じ側に付加する。この2つのOが最終的にOHに置換するようなことになる。よって、アルケンのOSO4を用いたジヒドロキシ化では、2つのOHがsyn付加したアルコールが主生成物となる。

 

 

◆ bについて
b × シクロヘキセンをm-クロロ過安息香酸で処理すると、ラセミ化合物が得られる。
→ 〇 シクロヘキセンをm-クロロ過安息香酸で処理すると、オキシランのメソ化合物が得られる。

 

アルケンにm-クロロ過安息香酸(m-chloroperoxybenzoic acid:mCPBA)のような過酸(R−COOOH)を反応させるとオキシラン(エポキシド)が生成する。

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

シクロヘキセンにm-クロロ過安息香酸(m-chloroperoxybenzoic acid:mCPBA)のような過酸(R−COOOH)を反応させると上図のBまたはCのオキシラン(エポキシド)が生成するが、BとCは分子内対称面を持つので、これらは同一化合物である。

 

なお、アルケンに付加する過酸(R−C(=O)OOH))のO原子は、C(=O)から最も離れた↓のO原子である。国試過去問で問われたことがあるので押さえておこう。

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

★ オキシラン(エポキシド)に対して酸触媒による加水分解を行うと2つのOHがanti付加したアルコールが生成する。

 

詳細は下記のリンク先を参照
アルケン 過酸でエポキシ化,加水分解でエポキシド開環 103回問102

 

アルケンに過酸(R−COOOH)を反応させるとオキシラン(エポキシド)が生成する。
 さらに、オキシラン(エポキシド)に対して酸触媒による加水分解を行うと2つのOHがanti付加(trans付加)したアルコールが生成する。

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

シクロヘキセンを基質として上記の反応が起きると、最終的に図のDとEのアルコールが等量ずつ生成すると考えられる。
Dの立体は(R,R)で、Eの立体は(S,S)であるので、DとEは互いにエナンチオマー(鏡像異性体)の関係にある。

 

 

◆ cについて
c × シクロヘキセンをジボランと反応させた後、アルカリ性過酸化水素で処理すると、第3級アルコールが得られる。

 

→ 〇 シクロヘキセンをジボランと反応させた後、アルカリ性過酸化水素で処理すると、第2級アルコールが得られる。

 

cの反応はアルケンのヒドロホウ素化−酸化である。

 

アルケンのヒドロホウ素化−酸化については下記のリンク先を参照
アルケンのヒドロホウ素化−酸化 100回問102

 

 

アルケンのヒドロホウ素化−酸化による水和反応では、
アルケンのC=Cに対してH2OがOHとHに分かれてsyn付加したアルコールが生成する。主生成物が逆マルコフニコフ型であるのも特徴である(本問の基質ではこの点を考慮しなくてよい)。

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

cの反応ではシクロヘキセンから主生成物としてCまたはC´の第二求アルコールが生成する。CとC´には不斉炭素はなく、これらは同一の化合物である。

 

 

◆ dについて
d 〇 シクロヘキセンにオゾンと反応させた後、亜鉛で処理すると、アルデヒドが得られる。

 

アルケンのオゾン分解については下記のリンク先を参照
アルケンのオゾン分解 102回問102

 

アルケンにオゾンを反応させるとオゾニドが生成する。さらに、オゾニドを亜鉛−酢酸やスルフィド(R2S)やホスフィン(R3P)で還元処理すると、アルケンが開裂したアルデヒドまたはケトンが生成する。

 

 

アルケン 反応 総合問題 95回薬剤師国家試験問9

 

 

◆ eについて
e × シクロヘキセンを臭化水素と反応させると、ジブロモ化合物が得られる。
→ 〇 シクロヘキセンを臭化水素と反応させると、水素と臭素が付加した化合物が得られる。

 

アルケンに対するハロゲン化水素(HX)の付加反応については、
下記のリンク先を参照
アルケンのハロゲン化水素付加 98回問103の1

 

eの反応はアルケンに対するハロゲン化水素(HX)の付加反応であり、アルケンのC=Cに対してHXがHとXに分かれて付加したハロゲン化物が生成する。
なお、本問の基質では考慮しなくてよいが、アルケンに対するハロゲン化水素の付加反応は、より安定なカルボカチオン中間体を生成する過程を経るので、主生成物がマルコフニコフ型となる。マルコウニコフ型の生成物とは、アルキル置換基の数が少ない方の炭素にHが付加し、アルキル置換基の数が多い方の炭素にH以外のものが付加した生成物を指す。

 

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