酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

第83回薬剤師国家試験 問16
互いに共役である酸塩基対をある濃度以上含む溶液に、少量の酸や塩基を加えたり、水を加えて薄めたりしても、その溶液のpHは大きく変化しない。このような溶液をpH緩衝液といい、次式の関係がある。

 

酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

次の記述A,Bの[ a ][ b ]に入れるべき数値を選びなさい。ただし、酢酸のpKa=4.74とする。

 

A.酢酸と酢酸ナトリウムの各々0.200 mol/L水溶液を等容量ずつ混合した。最も近いpHは[ a ]である。
1 3.74 2 4.74 3 5.74 

 

B.Aの溶液100 mLに1.00 mol/L 塩酸1.0 mLを加えた。最も近いpHは、[ b ]である。
4 3.65 5 4.65 6 4.83 

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第83回薬剤師国家試験 問16 解答解説

 

溶液中の互いに共役である酸(acid)と塩基(base)の対について、次式が成り立つ。

 

酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

pKaとは酸(acid)のpkaである。
これをヘンダーソン・ハッセルバルヒの式という。必ず覚えておこう。

 

 

〇 Aについて
酢酸と酢酸ナトリウムの各々0.200 mol/L水溶液を等容量ずつ混合した。最も近いpHは[ a ]である。
正解は2の4.74である。

 

酸となる物質(HA)はプロトン(H+)を放出して陰イオン形(A:−)となり、A:−はプロトンを受け取ってHAになる。A:−を酸(HA)の共役塩基と呼ぶ。
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

弱酸HAとその共役塩基A−をそれぞれある濃度以上含む溶液を緩衝液という。
この緩衝液では、酸を加えると塩基A−によって中和され、塩基を加えると酸HAによって中和されることにより、外部からの酸・塩基の流入に対してpHの変動を抑える作用(緩衝作用)が働く。

 

☆ 弱酸HAとその共役塩基A−のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

上記@の可逆反応より、H3O+をH+とみなすと、
HAの酸解離平衡定数Kaは

 

酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

ここで、両辺の負の常用対数(−log)をとると、
次式が成り立つ。

 

酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

これを弱酸HAとその共役塩基A−のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式という。
この式は弱酸とその共役塩基の緩衝液のpHの計算をはじめとして、様々な計算に利用できる場合が多いので必ず覚えておこう。

 

問Aでは、酢酸と酢酸ナトリウムの各々0.200 mol/L水溶液を等容量ずつ混合した溶液が作成されている。
酢酸ナトリウムは強電解質であり、水中ではほとんど電離している。
CH3COONa → CH3COO− + Na+

 

よって、問Aの混合溶液は、弱酸であるCH3COOHとその共役塩基のCH3COO−の緩衝液である。
弱酸HAとその共役塩基A−のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式より、本問の混合溶液について次式が成り立つ。

 

酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

問題文より、「酢酸と酢酸ナトリウムの各々0.200 mol/L水溶液を等容量ずつ混合した」とあるので、
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16
である。

 

よって、
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16
pH = 4.74

 

一般に、
弱酸とその共役塩基の塩からなる緩衝液において、
弱酸の濃度とその共役塩基の濃度が等しい場合、
水素イオン濃度=弱酸のKa
pH=pka
が成り立つ。

 

 

☆ 弱塩基Bとその共役酸BH+のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式
弱塩基B:とその共役酸BH+をそれぞれある濃度以上含む溶液も同様に緩衝液となる。
この緩衝液では、酸を加えると塩基B:によって中和され、塩基を加えると酸BH+によって中和されることにより、外部からの酸・塩基の流入に対してpHの変動を抑える作用(緩衝作用)が働く。

 

塩基B:の共役酸BH+は水中で次のように解離する。
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

上記Aの可逆反応より、H3O+をH+とみなすと、
塩基B:の共役酸BH+の酸解離平衡定数Kaは
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16
で表され、
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16
ここで、両辺の負の常用対数(−log)をとると、
次式が成り立つ。

 

酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

これを弱塩基Bとその共役酸BH+のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式という。
この式は弱塩基Bとその共役酸BH+の緩衝液のpHの計算をはじめとして、様々な計算に利用できる場合が多いので必ず覚えておこう。

 

 

〇 Bについて
酢酸と酢酸ナトリウムの各々0.200 mol/L水溶液を等容量ずつ混合した溶液100 mLに1.00 mol/L 塩酸1.0 mLを加えた。最も近いpHは、[ b ]である。
正解は5の4.65である。

 

Aの溶液に塩酸を加えると、塩基であるCH3COO−がHClから生成するH+を中和する反応が起きる。
CH3COO− + Na+ + H+ + Cl− → CH3COOH + NaCl

 

 

塩酸の混合前後における各物質の物質量は下記の通り
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

弱酸HAとその共役塩基A−のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式より、
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

pH = 4.74 + log9 − log11

 

本問ではlog9とlog11を換算するlogの値が与えられていないのでBのpHを算出することができない。
しかし、本問の溶液は緩衝液であり、少量の酸が加えられても塩基が中和に当たりpHは大きく変動しないことを勘案すると、AのpHの4.74より少し下がった値だと予測することができ、正解は4.65だと考えられる。

 

 

〇 補足
Bでは緩衝液に酸を加えた場合のpHの変動を考えた。
一方で、緩衝液に塩基を加えた場合はどうなるのか。
酢酸と酢酸ナトリウムの各々0.200 mol/L水溶液を等容量ずつ混合した溶液100 mLに1.00 mol/L 水酸化ナトリウム溶液1.0 mLを加えた場合を想定し、pHの変動を考える。

 

Aの溶液に水酸化ナトリウム溶液を加えると、酸であるCH3COOHがNaOHから生成するOH−を中和する反応が起きる。
CH3COOH + Na+ + OH− → CH3COO− + Na+ + H2O

 

1.00 mol/L 水酸化ナトリウム溶液1.0 mLの混合前後における各物質の物質量は下記の通り
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16

 

弱酸HAとその共役塩基A−のヘンダーソン・ハッセルバルヒの式より、
酢酸と酢酸ナトリウムを等容量ずつ混合した後、塩酸を加えた溶液のpH 83回薬剤師国家試験問16
pH = 4.74 + log11 − log9

 

BのpHが4.65だとすると、この場合のpHは4.83だと考えられる。
本問の溶液は緩衝液であり、少量の塩基が加えられても酸が中和に当たりpHは大きく変動しない。

 

★参考外部サイトリンク
酸・塩基の定義(猫でもわかる有機化学さん)

 

酸・塩基の平衡(猫でもわかる有機化学さん)

 

緩衝作用(薬学これでOK!さん)

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