アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

第104回薬剤師国家試験 問105
以下に示す反応において、出発物質であるアミンと生成物との組合せの正誤を判定してみよう。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

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第104回薬剤師国家試験 問105 解答解説

 

正解は2と5である。

 

亜硝酸塩または亜硝酸エステルは酸性条件下、ニトロソニウムイオン(+NO)を生成し、
それが求電子剤として反応する。
アミンの酸性条件下での亜硝酸Naとの反応の生成物は下記の表の通り

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

 

以下、詳細

 

硝酸(HNO3)は強酸であるが(pKaは−1.4)、亜硝酸(HNO2)は不安定な弱酸である(pKaは3.4)。
亜硝酸ナトリウム(NaNO2)に塩酸や硫酸などの強酸を加えて酸性条件とすると、まず弱酸である亜硝酸(HNO2)が遊離し、さらに、亜硝酸が酸でプロトン化され、次いで脱水が起こり、求電子剤であるニトロソニウムイオン(ニトロシルカチオン:+NO)を生じる。
ニトロソニウムイオン(+NO)を発生させることにおいて、亜硝酸そのものは不安定で分解しやすいため、亜硝酸塩や亜硝酸エステルを用いる。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

設問の反応では、亜硝酸Na(NaNO2)と塩酸を反応させて
ニトロソニウムイオン(+NO)を発生させ、アミンに対して求電子剤の+NOが反応するが、アミンの種類ごとに生成物が異なる。

 

 

◆ 1について

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

生成物は正しくない。
脂肪族第1級アミン(R−NH2)とニトロソニウムイオン(+NO)の反応では、アミンの窒素原子が非共有電子対を+NOに供与し、HがNOに置換したN−ニトロソ化合物(R−NH−NO)を生成し、このNOがプロトン化されてR−NH−NOH+となり、次いでH2Oが抜け(脱水)、脂肪族ジアゾニウム塩(R−N2+)となるが、脂肪族ジアゾニウム塩は不安定で、低温でもすぐに分解し、窒素ガス(N2)が発生し、他にカルボカチオン(R+)やアルコール(ROH)等が生成する。
この反応は脂肪族第1級アミンの確認試験に用いられ、試料中に脂肪族第1アミンが存在すると、脂肪族ジアゾニウム塩が分解して窒素ガス(N2)を発生することで確認できる。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

 

◆ 2について

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

生成物は正しい。
2は脂肪族第2級アミンと+NOとの反応である。
脂肪族および芳香族第2級アミン(R1(R2)NH)とニトロソニウムイオン(+NO)の反応では、アミンの窒素原子が非共有電子対を+NOに供与し、HがNOに置換したN−ニトロソ化合物(R1(R2)N−NO)を生成する。1級アミンから生成したN−ニトロソ化合物(R−NH−NO)は窒素原子に水素があるので脱水が起こってジアゾニウム塩になったが、2級アミンから生成したN−ニトロソ化合物(R1(R2)N−NO)は窒素原子に水素が無いため脱水が起こらず、ジアゾニウム塩にはならない。
よって、脂肪族および芳香族第2級アミン(R1(R2)NH)とニトロソニウムイオン(+NO)の反応では、N−ニトロソ化合物(R1(R2)N−NO)が生成物となる。
この反応は第2級アミンの確認試験として用いられ、試料中に第2級アミンが存在するとN−ニトロソ化合物の黄色沈殿を生じる。

 

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◆ 3について

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

生成物は誤りである。
3は芳香族第1級アミンと+NOとの反応である。
芳香族第1級アミン(Ar−NH2)とニトロソニウムイオン(+NO)の反応では、アミンの窒素原子が非共有電子対を+NOに供与してN−ニトロソ化合物(Ar−NH−NO)を生成し、これのNOがプロトン化されてAr−NH−NOH+となり、次いでH2Oが抜け(脱水)、芳香族ジアゾニウム塩(Ar−N2+)となる。芳香族ジアゾニウム塩(Ar−N2+)は芳香環があるため広く共鳴安定化するので、生成物として取り出すことが可能である。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

 

この反応は芳香族第1級アミンの確認試験に応用されている。試料中に芳香族第1級アミンが存在すると、酸性条件下での亜硝酸Naの添加により芳香族ジアゾニウム塩を生成し、さらに、津田試薬と呼ばれるN,N-ジエチル-N'-(1-ナフチル)エチレンジアミンシュウ酸塩の試薬を添加すると、津田試薬中の化合物の芳香環に対して、ジアゾニウム塩が求電子剤として反応し(芳香族求電子置換反応)、アゾ基(−N=N−)を有する化合物(アゾ色素)が生成して赤紫色を呈する。なお、津田試薬中の化合物の芳香環に対するジアゾニウム塩の求電子置換反応はジアゾカップリングと呼ばれる。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

この反応は、元から芳香族第1級アミン構造を有する物質の他、加水分解や還元などを経て芳香族第1級アミン構造を生成する物質の確認試験にも使用される。

 

 

・ 加水分解で芳香族第1級アミンが生成する例

 

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・ 還元で芳香族第1級アミンが生成する例

 

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◆ 4について

 

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生成物は正しくない。ニトロ基(NO2)ではなく、ニトロソ基(NO)が置換したものが正しい。
4は芳香族第2級アミンと+NOの反応である。
脂肪族および芳香族第2級アミン(R1(R2)NH)とニトロソニウムイオン(+NO)の反応では、アミンの窒素原子が非共有電子対を+NOに供与し、HがNOに置換したN−ニトロソ化合物(R1(R2)N−NO)を生成する。1級アミンから生成したN−ニトロソ化合物(R−NH−NO)は窒素原子に水素があるので脱水が起こってジアゾニウム塩になったが、2級アミンから生成したN−ニトロソ化合物(R1(R2)N−NO)は窒素原子に水素が無いため脱水が起こらず、ジアゾニウム塩にはならない。
よって、脂肪族および芳香族第2級アミン(R1(R2)NH)とニトロソニウムイオン(+NO)の反応では、N−ニトロソ化合物(R1(R2)N−NO)が生成物となる。
この反応は第2級アミンの確認試験として用いられ、試料中に第2級アミンが存在するとN−ニトロソ化合物の黄色沈殿を生じる。

 

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◆ 5について

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

生成物は正しい。
5は芳香族第3級アミンと+NOの反応である。

 

第3級アミンは窒素原子にHが無いので、N原子に対するNOの置換反応(N−ニトロソ化)は起こらない。
また、一般に3級アミンの窒素は立体障害が大きいことから反応しにくいことも押さえておこう。

 

脂肪族第3級アミンは+NOと反応しない。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

 

しかし、芳香族第3級アミンでは、3級アミンの置換による電子供与性電子効果で芳香環の電子密度が高まっており、電子豊富な芳香環に対して+NOが求電子攻撃を行い、芳香族置換反応の結果、芳香環の炭素においてHがNOに置換したC−ニトロソ化合物が生成する。
5の反応について、アミンが置換したベンゼン環の芳香族置換反応における配向性はオルト・パラであり、また、オルト位は立体障害が大きいので、パラ位にNOが置換したC−ニトロソ化合物が主生成物となる。

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

 

★ アミンの酸性条件下での亜硝酸Naとの反応のまとめ

 

亜硝酸塩または亜硝酸エステルは酸性条件下、ニトロソニウムイオン(+NO)を生成し、
それが求電子剤として反応する。
生成物は下記の表の通り

 

アミンとNaNO2でニトロソ化 反応機構 104回薬剤師国家試験問105

 

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