薬剤師国家試験過去問題集 ターゲティング

トラスツズマブ エムタンシン製剤 107回薬剤師国家試験問282,283

107回薬剤師国家試験 問282?283
54歳女性。体重60kg。腋窩リンパ節転移が著明な進行性乳がんと診断され、トラスツズマブを含む化学療法を継続していた。最近の画像検査にて肝転移を認めたため、以下の化学療法を施行することとなった。

 

107回薬剤師国家試験問282,283 トラスツズマブ エムタンシン製剤

 

107回薬剤師国家試験 問282(実務)
本化学療法レジメンの運用に際して院内で合意された内容のうち、適切なのはどれか。1つ選びなさい。
1 @の生理食塩液は省略できる。
2 Aのトラスツズマブ エムタンシンの投与時間は初回に限り30分に短縮できる。
3 Aのトラスツズマブ エムタンシンは5%ブドウ糖液で溶解する。
4 Bの生理食塩液は省略できる。
5 Aのトラスツズマブ エムタンシン溶解液はインラインフィルターを用いて投与する。

 

107回薬剤師国家試験 問283(薬剤)
トラスツズマブ エムタンシン製剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 有効成分は、分子標的薬である核酸医薬と抗がん薬DM1が結合した核酸薬物複合体である。
2 有効成分は、ヒト上皮増殖因子と抗がん薬DM1が結合したタンパク質薬物複合体である。
3 有効成分は、点滴静注後、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)を標的として抗がん薬DM? を能動的にターゲティングする。
4 有効成分が細胞内に取り込まれた後、リソソーム内で抗がん薬DM1を遊離する。
5 有効成分が細胞膜上の受容体に結合した後、遊離した抗がん薬DM1が細胞膜に傷害を引き起こす。

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107回薬剤師国家試験 問282(実務) 解答解説

 

107回薬剤師国家試験問282,283 トラスツズマブ エムタンシン製剤

 

◆ 1について
1 × @の生理食塩液は省略できる。

 

抗がん剤投与前の生理食塩液の点滴静注は、
抗がん剤の血管外漏出を防ぐ目的があるため、省略はできない。

 

 

◆ 2について
2 × Aのトラスツズマブ エムタンシンの投与時間は初回に限り30分に短縮できる。

 

トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)の初回投与時は90分かけて投与する。
初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。

 

 

◆ 3について
3 × Aのトラスツズマブ エムタンシンは5%ブドウ糖液で溶解する。

 

トラスツズマブはブドウ糖溶液と混合するとタンパク凝集を起こす。
そのため、トラスツズマブを構成成分とする薬剤について、粉末をブドウ糖溶液で溶解したり、溶液をブドウ糖溶液と混合することは避ける。
トラスツズマブ エムスタシンの注射剤の調整は以下の通りに行う。
「バイアルに入った薬剤を注射用水により溶解してトラスツズマブ エムスタシン20mg/mLの濃度にした後、必要量を注射筒で抜き取り、直ちに日局生理食塩液250mLに希釈する」
(ハーセプチン)でも同様である。

 

 

◆ 4について
4 × Bの生理食塩液は省略できる。

 

抗がん剤投与後の生理食塩液の点滴静注は、
輸液ラインに残った抗がん剤を流し込み、量り取った抗がん剤を投与しきる、抗がん剤の暴露を防止するという目的があるので、省略はできない。

 

 

◆ 5について
5 〇 Aのトラスツズマブ エムタンシン溶解液はインラインフィルターを用いて投与する。

 

トラスツズマブ エムタンシン溶解液は、生理食塩液で希釈した際に、微粒子を形成する可能性があるため、0.2又は0.22μmインラインフィルター(ポリエーテルスルホン製又はポリスルホン製)を通して投与することとされている。

 

 

107回薬剤師国家試験 問283(薬剤) 解答解説

 

◆ 1,2について
1 × 有効成分は、分子標的薬である核酸医薬と抗がん薬DM1が結合した核酸薬物複合体である。

 

2 × 有効成分は、ヒト上皮増殖因子と抗がん薬DM1が結合したタンパク質薬物複合体である。

 

トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)の有効成分は、
分子標的薬である抗体医薬と抗がん薬のDM1が結合した抗体薬物複合体である。
また、抗体はタンパク質なので、タンパク質薬物複合体であるともいえる。

 

トラスツズマブ エムタンシン(カドサイラ)は、
抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるトラスツズマブとチューブリン重合阻害作用を有するDM1(エムスタシン)を、リンカーを介して結合させた抗体薬物複合体である。

 

107回薬剤師国家試験問282,283 トラスツズマブ エムタンシン製剤

 

◆ 3,4,5について
3 〇 有効成分は、点滴静注後、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)を標的として抗がん薬DM1を能動的にターゲティングする。

 

4 〇 有効成分が細胞内に取り込まれた後、リソソーム内で抗がん薬DM1を遊離する。

 

5 × 有効成分が細胞膜上の受容体に結合した後、遊離した抗がん薬DM1が細胞膜に傷害を引き起こす。
DM1は細胞膜に傷害を引き起こすわけではない。DM1の作用機序はチューブリン重合阻害によるアポトーシスの誘導である。

 

トラスツズマブは、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)に特異的に結合するモノクローナル抗体である。トラスツズマブが細胞膜上のHER2に結合すると、抗体依存性細胞傷害(ADCC),HER2細胞外ドメインの遊離抑制、PI3K/AKT経路のシグナル伝達阻害作用が発動される。
また、トラスツズマブはFcγ受容体にも結合し、このことも抗腫瘍効果に関与すると考えられている。

 

トラスツズマブ エムタンシンは、先述のトラスツズマブの作用に加え、HER2に結合して細胞内に取り込まれた後、主として細胞内のリソソーム内で分解され、DM1含有代謝物を遊離し、DM1がチューブリンの重合を阻害し、G2/M期での細胞周期停止及びアポトーシスを誘導する。

 

よって、トラスツズマブ エムスタシ(カドサイラ)は、ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)を標的とし、その抗体であるトラスツズマブにDM1(エムタシン)を結合させた能動的ターゲティング製剤である。

 

トラスツズマブ エムスタシ(カドサイラ)の抗腫瘍効果について、トラスツズマブに感受性のHER2陽性のヒト乳癌由来細胞株に対し、トラスツズマブよりも強い増殖抑制作用を示すとされている。
また、トラスツズマブに非感受性のHER2陽性のヒト乳癌由来細胞株に対して増殖抑制作用を示すことが報告されている。

 

 

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