ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回薬剤師国家試験問9

第88回薬剤師国家試験 問9
化合物a〜dの求核置換反応に関する記述の正誤を判定してみよう。
ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

ア 化合物aは炭素−ハロゲン結合がきわめて強く容易に開裂しないので、臭素を置換することは難しい。
イ 化合物bは第3級ハロゲン化合物であるからSN1機構で容易に反応する。
ウ 化合物cは第1級ハロゲン化合物であるからSN2機構で容易に反応する。
エ 化合物dは第1級ハロゲン化合物であるからSN2機構で容易に反応する。

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第88回薬剤師国家試験 問9 解答解説

 

ハロゲン化アルキルの求核置換反応(SN1,SN2)における
基質の構造と反応性については下記のリンク先を参照
求核置換反応の基質の構造と反応性 83回問7c

 

 

◆ アについて
ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

ア 〇 化合物aは炭素−ハロゲン結合がきわめて強く容易に開裂しないので、臭素を置換することは難しい。

 

ハロゲン化物の中でも、
炭素−ハロゲン結合がsp2炭素−ハロゲン結合である
ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)やハロゲン化アリール(Ar−X)では求核置換反応が起こりにくい。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

詳細は下記のリンク先を参照
ハロゲン化ビニルは求核置換反応を受けにくい 89回問6a

 

 

◆ イについて
ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

イ × 化合物bは第3級ハロゲン化合物であるからSN1機構で容易に反応する。
→ 〇 化合物bは第3級ハロゲン化合物であるが、生成するカルボカチオンはビシクロ構造の橋頭位(橋のたもと)の炭素がC+となる不安定なものであるため、SN1反応は進行しにくい。

 

SN1反応では、第一段階として基質から脱離基が陰イオンとなって外れてカルボカチオン中間体を生成する。第二段階として、カルボカチオンに対して求核剤が付加する。結果、脱離基と求核剤が置換したものが生成する。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

SN1反応の律速段階は、第一段階の脱離基が外れてカルボカチオン中間体を生成する過程である。カルボカチオンとして安定性の高い第3級カルボカチオンやアリルカチオン、ベンジルカチオンが生成する基質ならばSN1反応が起こる可能性はあるが、ノーマル第1級カルボカチオンやメチルカチオンといった不安定なカルボカチオンが生成する基質の場合はSN1反応が起こる可能性は低い。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

カルボカチオンの安定性については下記のリンク先で解説
カルボカチオンの安定性について

 

★ 第3級カルボカチオンの中でも、ビシクロ構造の橋頭位(橋のたもと)の炭素がC+となる第3級カルボカチオンは不安定なので生成しない。

 

C+はsp2混成軌道をとるが、sp2は3本の結合を結合角120°で同一平面に伸ばす形が安定である。ビシクロの橋頭位がC+となった場合、C+のsp2の3本の結合は同一平面に伸びる形を取れず、ビシクロ構造の維持のため無理して伸ばす形になるため不安定である。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9
化合物bは第3級ハロゲン化物だが、臭素が脱離して生成するカルボカチオンはビシクロ構造の橋頭位(橋のたもと)の炭素がC+となる不安定なものである。よって、化合物bでは、ハロゲンが脱離してカルボカチオン中間体を生成する過程が進行しにくいため、SN1反応は進行しにくい。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

 

◆ ウについて
ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

ウ 〇 化合物cは第1級ハロゲン化合物であるからSN2機構で容易に反応する。

 

化合物cはハロゲン−sp3炭素結合を有する第1級ハロゲン化物であり、
反応中心炭素の立体障害の小さい基質であり、
Cδ+に求核剤がアクセスしやすいので、SN2反応が起こりやすい。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

SN2反応の進行と基質の構造について、X−sp3炭素のCδ+のアルキル置換基の数が少ないほど、または、置換基が立体的に小さい基質ほどSN2反応は進行しやすい。

 

ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

 

◆ エについて
ハロゲン化アルキルのSN1・SN2の反応性と基質の立体構造 88回問9

 

エ × 化合物dは第1級ハロゲン化合物であるからSN2機構で容易に反応する。
→ 〇 化合物dは第1級ハロゲン化合物であるが、置換しているアルキル基の立体的サイズが大きいため、SN2反応はほとんど起こらない。。

 

SN2反応の反応性に対する置換基の影響について、反応中心炭素の置換基の数だけでなく、置換基の種類も多大な影響を与える。
化合物dは第1級ハロゲン化物で、反応中心炭素の置換基の数は少ないが、置換しているアルキル基が非常にかさ高いtert-ブチル基(ターシャリーブチル基)であるため、
SN2反応は進行しにくい。
なお、dの構造のハロゲン化物をハロゲン化ネオペンチルとも呼ぶ。

 

★ SN2反応は、反応中心炭素の置換基の立体的なサイズが小さいほど進行しやすく、
置換基の立体的なサイズが大きいほど進行しにくい。

 

反応中心炭素(Cδ+)に立体的なサイズの大きい置換基が結合すると
SN2反応の反応性が低下する。
その理由として次の@とAのことが挙げられる。

 

@ Cδ+に対する求核剤のアクセスにおいて、かさ高い置換基が物理的に求核剤の行く手を遮ることにより、求核剤がCδ+に接近しづらくなる。

 

A 置換基がかさ高い場合、立体障害により遷移状態のエネルギーが高いことから、活性化エネルギーが高くなる。

 

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