ドキシル注の特徴と血管外漏出の対処法 105回薬剤師国家試験問282,283
105回薬剤師国家試験 問282−283
73歳女性。卵巣がんStageVcに対してTC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法を施行していたが6ヶ月後に再発した。そこで2次療法として、ドキソルビシン塩酸塩をMPEG−DSPE(注)修飾リポソームに封入した注射剤(ドキシル注)を導入することになった。
問282(薬剤)
ドキシル注に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 添加物に卵由来の成分が含まれているので、卵アレルギーの患者には慎重に投与する。
2 ステルス機能を有する能動的ターゲティング製剤である。
3 希釈には生理食塩液を使用する。
4 従来のドキソルビシン塩酸塩製剤に比べて、インフュージョンリアクションが現れやすい。
5 リポソームへのMPEG−DSPE 修飾により、細網内皮系に異物として認識されにくい。
問283(実務)
5コース目の投与中に、患者から、刺入部に耐え難い焼かれるような痛みを感じ、赤く腫れているとの訴えがあり、ドキシル注の血管外漏出が疑われた。本剤の血管外漏出の対処法として、適切なのはどれか。2つ選びなさい。
1 患部を温める。
2 すぐに留置針を抜く。
3 患部を生理食塩液でフラッシュする。
4 デクスラゾキサンを静脈内投与する。
5 漏出部周囲から薬液や血液を吸引・除去する。
105回薬剤師国家試験 問282(薬剤) 解答解説
◆ 2,5について
2 × ステルス機能を有する能動的ターゲティング製剤である。
→ 〇 ステルス機能を有する受動的ターゲティング製剤である。
5 〇 リポソームへのMPEG−DSPE 修飾により、細網内皮系に異物として認識されにくい。
受動的ターゲティングとは、生体内の生理学的・解剖学的特性を受動的に利用するターゲティングである。
MPEG−DSPEとは、ポリエチレングリコール(PEG)の1種である。
ドキシル注は、表面をポリエチレングリコールで修飾したリポソーム(PEG化リポソーム)の水相に、抗がん剤のドキソルビシン塩酸塩を封入した受動的ターゲティング製剤である。
リポソームとは、脂質二分子膜からなる閉鎖小胞であり、脂質膜には脂溶性薬物を含むことができ、中の水相には水溶性薬物を含むことができる担体である。
表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたリポソームは、親水性が高まり、抗原性が低下して細網内皮系免疫細胞による認識と貪食が抑制され、粒子サイズの拡大により腎排泄は抑制されるので、血中滞留性が向上している。
なお、PEG化リポソームは、細網内皮系に異物として認識されにくいことから、ステルスリポソームと呼ばれる。
腫瘍細胞は正常組織に比べ、血管新生と血管透過性が亢進しており、
リンパ管が未発達なので、高分子の移行性と滞留性が高い。これをEPR効果と呼ぶ。
血中滞留性の高いPEG修飾リポソームに抗がん剤を封入して投与すると、EPR効果により、腫瘍組織に選択的に抗がん剤を集積させることができる。
これは、EPR効果を利用した受動的ターゲティングである。
◆ 1について
1 × 添加物に卵由来の成分が含まれているので、卵アレルギーの患者には慎重に投与する。
ドキシル注は卵や鶏に由来する原料を使用していないので、卵アレルギーの患者に対する慎重投与の規定はない。
ただし、ドキシル注のリポソームの構成成分は水素添加大豆ホスファチジルコリンであるため、大豆アレルギーのある患者は慎重投与となっている。
このように、リポソームの原料として、大豆由来のリン脂質が用いられているものがあるので注意する。
アムビゾーム点滴静注(抗真菌薬のアムホテリシンBのリポソーム製剤)も、リポソームの構成成分が大豆リン脂質であるため、大豆アレルギーのある患者は慎重投与となっている。
ただし、オニバイド注(イリノテカン主薬の抗がん剤)、ビスダイン注(ベルテポルフィン主薬の加齢黄斑変性治療薬)など、リポソーム製剤ではあるが、原料が大豆由来ではないため、大豆アレルギーの患者に慎重投与ではない薬剤も存在する。
◆ 3について
3 × 希釈には生理食塩液を使用する。
ドキシル注は、希釈にブドウ糖注射液を使用することとされている。
他、アムビゾーム点滴静注(抗真菌薬のリポソーム製剤)とビスダイン注(加齢黄斑変性治療薬のリポソーム製剤)も希釈にはブドウ糖液を使用することとされている。
ただし、オニバイド注(イリノテカン主薬の抗がん剤)はリポソーム製剤であるが、希釈には500mLの生理食塩液又は5%ブドウ糖注射液を用いるとされている。
◆ 4について
4 〇 従来のドキソルビシン塩酸塩製剤に比べて、インフュージョンリアクションが現れやすい。
インフュージョンリアクション(輸注反応)とは、輸液や注射剤に対する薬剤過敏性反応であり、
一般に、輸液や注射剤の投与中、もしくは、投与後24時間以内に起こる。
従来のリポソーム製剤ではないドキソルビシン塩酸塩注(アドリアシン注)に比べて、
リポソーム製剤のドキシル注はインフュージョンリアクションが現れやすい。
ドキシル注の添付文書において、インフュージョンリアクションへの対処について以下の記載がある。
「急性のinfusion reactionが起こることがある。その症状は、多くの患者で投与中止又は終了後、数時間から1日で軽快し、また、投与速度の減速により軽快することもある。一部の患者では、重篤で致死的なアレルギー様又はアナフィラキシー様のinfusion reactionが報告されている。緊急時に十分な対応のできるよう治療薬と救急装置を準備した上で投与を開始し、infusion reaction発現の危険性を最小限にするため投与速度は1mg/分を超えないこと。このようなinfusion reactionが生じた場合は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。」
また、リポソームの凝集物や沈殿物はインフュージョンリアクションの頻度を上昇させる可能性があると報告されている。
105回薬剤師国家試験 問283(実務) 解答解説
ドキシル注の血管外漏出の対処法として、適切なのは、
4の「デクスラゾキサンを静脈内投与する」と、
5の「漏出部周囲から薬液や血液を吸引・除去する」である。
◆ 2,5について
2 × すぐに留置針を抜く。
5 〇 漏出部周囲から薬液や血液を吸引・除去する。
血管外漏出時は、直ちに薬剤の投与を中止するが、すぐに留置針を抜いてはならない。
まず、カテーテルや留置針に残っている薬液を注射器で吸引して除去する。その際、漏出部や留置針に残存する薬液を吸引するために、3〜5mLの血液を吸引する。その後、陰圧をかけながら留置針を抜く。
さらに、残存する薬液を除去するために、漏出部の組織液を注射器で吸引することもある。
漏出後、24〜48時間は漏出部を心臓より高く上げておく。
◆ 1,3について
1 × 患部を温める。
3 × 患部を生理食塩液でフラッシュする。
抗がん剤の血管外漏出による患部の処置について、一般に、患部を冷却する。
他、ステロイド外用剤や湿布薬などの投薬が行われる。
◆ 4について
4 〇 デクスラゾキサンを静脈内投与する。
ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系抗がん剤は、血管外漏出時の組織障害が強く、壊死起因性抗がん剤に分類されている。
デクスラゾキサン(サビーン点滴静注)は、アントラサイクリン系抗がん剤の血管外漏出治療剤であり、静脈内投与することにより、皮膚潰瘍などの組織障害を抑制する効果のある薬剤である。
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