高分子溶液の性質に関する記述 89回薬剤師国家試験問21
89回薬剤師国家試験 問21
高分子溶液の性質に関する記述のうち、正しいものはどれか。
a 高分子は、親和性の高い溶媒中では、その広がりが小さくなる。
b 水溶液中での高分子の拡散係数から、球形を近似してその水和半径を見積ることができる。
c 高分子電解質溶液に塩を添加してイオン強度を増加させると、高分子はより広がった形となり、粘度が増加する。
d イオン性高分子は電離基間の静電反発力により水中で広がった形をとり、溶液の粘度は非イオン性高分子と比べて大きい。
e 両性高分子電解質であるタンパク質は、等電点で一番広がりが小さくなる。
89回薬剤師国家試験 問21 解答解説
◆ aについて
a × 高分子は、親和性の高い溶媒中では、その広がりが小さくなる。
→ 〇 高分子は、親和性の高い溶媒中では、その広がりが大きくなる。
高分子と親和性の高い溶媒を良溶媒と呼び、親和性の低い溶媒を貧溶媒と呼ぶ。
線状高分子は、良溶媒中では溶媒分子と強く結合して伸びた形となり、大きく広がるため溶液の粘度は高くなる。
一方、貧溶媒中では溶媒分子との接触を避けようとして高分子同士が集まり、収縮した形となるため溶液の粘度は低くなる。
◆ bについて
b 〇 水溶液中での高分子の拡散係数から、球形を近似してその水和半径を見積ることができる。
拡散係数Dについて次式が成り立つ。
よって、
水溶液中での高分子の拡散係数から、球形を近似してその水和半径を見積ることができる。
◆ cについて
c × 高分子電解質溶液に塩を添加してイオン強度を増加させると、高分子はより広がった形となり、粘度が増加する。
高分子電解質溶液に塩を添加してイオン強度を増加させると、
添加塩により高分子電解質の水和水が引き抜かれ、かつ、電荷が中和されて静電的反発力が弱くなるため、凝集して分子の広がりが小さくなり、溶液の粘度が小さくなる。
なお、高分子溶液に塩を添加すると、
塩により高分子の水和水が引き抜かれ、溶解性が低下して沈殿する。
これを塩析と呼ぶ。
◆ dについて
d 〇 イオン性高分子は電離基間の静電反発力により水中で広がった形をとり、溶液の粘度は非イオン性高分子と比べて大きい。
◆ eについて
e 〇 両性高分子電解質であるタンパク質は、等電点で一番広がりが小さくなる。
等電点とは、分子全体の電荷が±0となり、分子が見かけ上電荷を持たなくなるpHのことである。
等電点付近のpH 領域においては、タンパク質は静電的反発力が弱くなるため、凝集して分子の広がりが小さくなり、溶液の粘度が小さくなる。