108回薬剤師国家試験問199 塩化ナトリウム水溶液におけるイオン強度や活量
108回薬剤師国家試験 問199
87歳男性。畑仕事中に意識がもうろうとなり、A病院に救急搬送された。現病歴と服用している薬剤の有無は不明であった。検査の結果、血清ナトリウム値が108mEq/Lと低ナトリウム血症を認めた。治療のため、3%塩化ナトリウム水溶液での点滴加療を開始することにした。処方内容や投与方法など治療方針について医師からICU 担当薬剤師に確認の依頼があった。
問199
塩化ナトリウム水溶液におけるイオン強度や活量に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
なお、塩化ナトリウムの式量は58.5とし、水溶液中で完全電離しているものとする。
1 イオン強度は、Na+やCl−の電荷数に依存しない。
2 イオン強度が高くなると、水中のNa+とCl−の間の相互作用は強くなる。
3 搬送時の血清ナトリウム値と等しいNa+濃度の塩化ナトリウム水溶液のイオン強度は54mmol/L である。
4 塩化ナトリウム水溶液の活量aはa = γ・x で表される。ただし、γは活量係数、xはモル分率である。
5 Na+、Cl−の活量をそれぞれa+、a−とすると、塩化ナトリウム水溶液の平均活量a±はa± = (a+・a−)/2 で表される。
108回薬剤師国家試験 問199 解答解説
◆ 1について
1 × イオン強度は、Na+やCl−の電荷数に依存しない。
イオン強度(I)は次式で表される。
上式より、
イオン強度は、溶液中のイオンの電荷に依存する。
◆ 3について
3 × 搬送時の血清ナトリウム値と等しいNa+濃度の塩化ナトリウム水溶液のイオン強度は54mmol/Lである。
→ 〇 搬送時の血清ナトリウム値と等しいNa+濃度の塩化ナトリウム水溶液のイオン強度は108mmol/Lである。
搬送時の血清ナトリウム値は108mEq/Lであり、
Na+の電荷は+1であることから、
搬送時の血清ナトリウム値と等しいNa+濃度は108mmol/Lである。
塩化ナトリウムは水溶液中でNa+とCl−に完全解離しているものとするので、
Na+濃度が108mmol/Lとなる塩化ナトリウム水溶液の濃度は108mmol/Lである。
108mmol/LのNaCl水溶液のイオン強度(I)は、下記のように計算される。
◆ 2,4,5について
2 〇 イオン強度が高くなると、水中のNa+とCl−の間の相互作用は強くなる。
4 〇 塩化ナトリウム水溶液の活量aはa = γ・x で表される。ただし、γは活量係数、xはモル分率である。
5 × Na+、Cl−の活量をそれぞれa+、a−とすると、塩化ナトリウム水溶液の平均活量a±はa± = (a+・a−)/2 で表される。
→ 〇 Na+、Cl−の活量をそれぞれa+、a−とすると、塩化ナトリウム水溶液の平均活量a±は
実在溶液の分析では、物質同士の相互作用を考慮に入れる必要があるため、
実効濃度(または実効モル分率)として活量aが定義される。
成分iの活量(ai)は、次式で表される。
ai = γ・xi
γ:活量係数 x:成分iのモル分率またはモル濃度
活量係数γは理想溶液からのずれを表す係数である。
理想溶液では、活量係数γは1である。
NaClのような電解質の活量については、
陽イオンの活量(a+)と陰イオンの活量(a−)を個別に表すのではなく、
陽イオンの活量と陰イオン活量を幾何平均した平均活量(a±)で表す。
溶液中のNaClについて、
Na+の活量をa+、
Cl−の活量をa−とすると、
NaClの平均活量(a±)は次式で表される。
また、活量係数γも陽イオンと陰イオンの活量係数を幾何平均した平均活量係数(γ±)として表される。
Na+の平均活量係数をγ+、
Cl−の平均活量係数をγ−とすると、
NaClの平均活量係数(γ±)は次式で表される。
溶液中の電解質はイオン間に相互作用が働き、これが活量に影響を与える。
このことについて、溶液中の電解質の平均活量係数(γ±)とイオン強度(I)の関係式として、
デバイ・ヒュッケルの極限則があり、
298Kで次式が成り立つ。
上式によると、理論的に、
イオン強度が0の時に平均活量係数は1であり、
イオン強度が増大するにつれ平均活量係数は小さくなる。
これは、イオン強度が高いほど、イオン間の相互作用が多く働くためと考えられる。
ただ、物質の相互作用によっては、活量係数が1より大きくなることもある。
高濃度の強電解質溶液では、平均活量係数が1より大きくなる場合もあることが知られている。
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