ターゲティングに関する記述 99回薬剤師国家試験問178
99回薬剤師国家試験 問178
ターゲティングに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 受動的ターゲティングとは、標的部位を特異的に認識できる抗体や糖タンパク質などを薬物に結合させて体内分布を制御する手法である。
2 逆ターゲティングとは、副作用を発現する部位への薬物分布を回避する手法である。
3 リポソームは、内部の疎水性コアに薬物を含有させた高分子ミセル製剤である。
4 昇圧化学療法とは、抗がん薬をマイクロカプセルなどのキャリアーに封入して、腫瘍の栄養動脈に注入する治療法である。
5 標的細胞内で特異的に発現する酵素により親薬物に変換されるプロドラッグを用いることで、薬物の標的細胞への選択的作用が得られる。
99回薬剤師国家試験 問178 解答解説
◆ 1について
1 × 受動的ターゲティングとは、標的部位を特異的に認識できる抗体や糖タンパク質などを薬物に結合させて体内分布を制御する手法である。
受動的ターゲティングとは、生体内の生理学的・解剖学的特性を受動的に利用するターゲティングである。
なお、1の記述中の、「標的部位を特異的に認識できる抗体や糖タンパク質などを薬物に結合させて体内分布を制御する手法」は、能動的ターゲティングである。
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◆ 2について
2 〇 逆ターゲティングとは、副作用を発現する部位への薬物分布を回避する手法である。
逆ターゲティングの例として、アンテドラッグがある。
アンテドラッグとは、標的部位では局所的に薬理作用を発揮するが、全身に移行すると代謝されて薬効を失う薬物であり、外用で用いられるステロイドに多い。
◆ 3について
3 × リポソームは、内部の疎水性コアに薬物を含有させた高分子ミセル製剤である。
リポソームとは、脂質二分子膜からなる閉鎖小胞であり、脂質膜には脂溶性薬物を含むことができ、中の水相には水溶性薬物を含むことができる担体である。
なお、高分子ミセルとは、親水性部と疎水性部からなるポリマーにおいて、水中で疎水性部同士が会合して形成されるミセルである。高分子ミセルは血中滞留性が高いことから、その内部の疎水性部に薬物を含有させることで、ターゲティング製剤とすることができる。
◆ 4について
4 × 昇圧化学療法とは、抗がん薬をマイクロカプセルなどのキャリアーに封入して、腫瘍の栄養動脈に注入する治療法である。
昇圧化学療法は、アンギオテンシンの併用投与により、抗がん剤の腫瘍組織への移行性を向上させる受動的ターゲティングである。
正常組織では、アンギオテンシンUを投与すると血管が収縮し、血流量が低下する。
一方、腫瘍組織では、アンギオテンシンUに対する血管収縮性に乏しい。
そのため、アンギオテンシンUを投与すると、腫瘍組織の血流が特異的に増加する。
この生体反応を利用し、腫瘍組織への抗がん剤の流入量を選択的に増大させる化学療法を、昇圧化学療法と呼ぶ。
なお、4の記述中の、「抗がん薬をマイクロカプセルなどのキャリアーに封入して、腫瘍の栄養動脈に注入する治療法」は、化学塞栓療法である。
化学塞栓療法とは、肝細胞がんを栄養している肝動脈内にカテーテルを挿入し、抗がん剤と塞栓物質を注入し、抗がん剤による攻撃と栄養の遮断により、がん細胞を死滅させる治療法である。
◆ 5について
5 〇 標的細胞内で特異的に発現する酵素により親薬物に変換されるプロドラッグを用いることで、薬物の標的細胞への選択的作用が得られる。
上記のプロドラッグの例として、アシクロビルやドキシフルリジンがある。
アシクロビル(ゾビラックス)は、ヘルペスウイルスが感染した細胞内に入ると、ウイルス性チミジンキナーゼにより一リン酸化された後、細胞性キナーゼによりリン酸化され、アシクロビル三リン酸となる。アシクロビル三リン酸は正常基質であるdGTPと競合してウイルスDNAポリメラーゼによりウイルスDNAの3’末端に取り込まれると、ウイルスDNA鎖の伸長を停止させ、ウイルスDNAの複製を阻害する。
ドキシフルリジン(フルツロン)は、腫瘍組織で高い活性を有する酵素であるピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼにより5-FUに変換され、抗腫瘍効果を発揮する。5-FUはFdUMPに代謝され、ウラシル由来のdUMPと拮抗し、チミジル酸合成酵素によるDNA合成経路を阻害する。また、5-FUはFUTPに変換され、ウラシルと同じくRNAにも取り込まれてF-RNAを生成し、RNAの機能を障害すると考えられている。
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