心房細動治療薬とその相互作用 103回薬剤師国家試験問276−277
103回薬剤師国家試験 問276−277
69歳男性。7年前から高血圧と糖尿病のため、エナラプリルマレイン酸塩、メトホルミン塩酸塩及びグリメピリドを服用している。これまで特に問題なく過ごしていたが、最近、動悸を感じるようになり病院を受診した。心電図から心房細動と診断され、以下の薬剤が追加処方された。
問276(実務)
この患者の薬物治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 処方1の主目的は、血圧を十分に低下させることである。
2 脈拍が不規則なので、プロプラノロール塩酸塩の処方を提案する必要がある。
3 処方2の代替薬の1つにリバーロキサバンがある。
4 処方2は心原性脳梗塞の予防目的で処方されている。
5 PT-INR 値が2.0〜3.0になっているか、モニタリングが必要である。
問277(薬剤)
薬剤師は、処方2について減量を考慮すべきと判断した。その理由として適切なのはどれか。2つ選びなさい。
1 ベラパミル塩酸塩との併用により、P-糖タンパク質が阻害され、消化管吸収が増大するため。
2 メトホルミン塩酸塩との併用により、尿細管分泌が抑制され、血中からの消失が遅延するため。
3 腎排泄能力の低下により、血中からの消失が遅延するため。
4 グリメピリドとの併用により、CYP2C9による代謝が低下し、血中からの消失が遅延するため。
5 肝代謝能力の低下により、血中からの消失が遅延するため。
103回薬剤師国家試験 問276(実務) 解答解説
◆ 1について
1 × 処方1(ベラパミル)の主目的は、血圧を十分に低下させることである。
→ 〇 ベラパミルの主目的は、心拍数を低下させることである。
ベラパミル(ワソラン)は、
フェニルアルキルアミン系のカルシウムブロッカーであり、
頻脈性不整脈や虚血性心疾患の治療に用いられる。
ベラパミルは、頻脈性心房細動に対しては、
一般にレートコントロール(心拍数の調節)を行う目的で投与される。
◆ 2について
2 × 脈拍が不規則なので、プロプラノロール塩酸塩の処方を提案する必要がある。
プロプラノロール塩酸塩(インデラル)は、
非選択的βブロッカーであり、頻脈性心房細動に対しては、
一般にレートコントロール(心拍数の調節)を行う目的で投与されるが、
リズムコントロール(洞調律の維持)を行う目的では投与されない。
◆ 3,4,5について
3 ○ 処方2の代替薬の1つにリバーロキサバンがある。
4 ○ 処方2は心原性脳梗塞の予防目的で処方されている。
5 × PT-INR 値が2.0〜3.0になっているか、モニタリングが必要である。
処方2のダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ)は、
直接トロンビン阻害作用を有する抗凝固薬であり、
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制に用いられる。
選択肢3にあるリバーロキサバン(イグザレルト)は、
選択的かつ直接的第]a因子阻害作用を有する抗凝固薬であり、
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制に用いられる。
選択肢5にあるPT-INR 値は、ワルファリンを服用中にモニタリングが必要な数値である。
ダビガトランは、出血リスクを正確に評価できる指標は確立されていないため、本剤投与中は、血液凝固に関する検査値のみならず、出血や貧血等の徴候を十分に観察することとされている。
103回薬剤師国家試験 問277(薬剤) 解答解説
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(以下本剤)の減量を考慮する理由として、
適切なのは、
選択肢1の「ベラパミル塩酸塩との併用により、P-糖タンパク質が阻害され、消化管吸収が増大するため」と、
選択肢3の「腎排泄能力の低下により、血中からの消失が遅延するため」である。
本剤は、通常、成人にはダビガトランエテキシラートとして1回150mgを1日2回経口投与する。
ダビガトランエテキシラートは、P-糖タンパク質の基質である(活性代謝物のダビガトランはP-糖タンパク質の基質ではないと考えられている)。
経口投与されたダビガトランエテキシラートは、
ベラパミルなどのP-糖タンパク質阻害作用を有する薬物との併用により、
消化管吸収が増大し、
活性代謝物のダビガトランの血中濃度が上昇することがある。
そのため、P-糖タンパク質阻害作用を有する薬物と併用する場合は、
本剤をダビガトランエテキシラートとして1回110mg 1日2回で投与するよう考慮することとされている。
また、本剤と同時にベラパミル塩酸塩の併用を開始、もしくは本剤服用中に新たにベラパミル塩酸塩の併用を開始する場合は、併用開始から3日間はベラパミル塩酸塩服用の2時間以上前に本剤を服用させることとされている。
消化管から吸収されたダビガトランエテキシラートは、
大部分が活性代謝物のダビガトランとなり、主に腎排泄により消失する。
そのため、中等度の腎障害(クレアチニンクリアランス30-50mL/min)のある患者の場合、
本剤をダビガトランエテキシラートとして1回110mg 1日2回で投与するよう考慮することとされている。
なお、透析患者を含む高度の腎障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者では、本剤は投与禁忌となっている。
以下、他の選択肢について
◆ 2について
2 × メトホルミン塩酸塩との併用により、尿細管分泌が抑制され、血中からの消失が遅延するため。
消化管吸収されたメトホルミン(メトグルコ)は、
未変化体のまま腎排泄により消失するが、
本剤との相互作用の報告はない。
◆ 4,5について
4 × グリメピリドとの併用により、CYP2C9による代謝が低下し、血中からの消失が遅延するため。
5 × 肝代謝能力の低下により、血中からの消失が遅延するため。
本剤は肝機能による投与制限はない。
消化管から吸収されたダビガトランエテキシラートは、
大部分がエステラーゼにより加水分解されて活性代謝物のダビガトランとなる。
ダビガトランとなった後は大部分が代謝を受けずに腎排泄されるが、
一部はグルクロン酸転移酵素によりグルクロン酸抱合体となる。
経口投与された本剤のうち、CYPにより代謝されるものはわずかである。
消化管吸収されたグリメピリド(アマリール)は、
主にCYP2C9により代謝されて消失するが、
本剤との相互作用の報告はない。
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