アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回薬剤師国家試験問101

第102回薬剤師国家試験 問101
次の反応のうち、主生成物がラセミ体として生じるのはどれか。
(THF:テトラヒドロフラン)

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

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薬剤師国家試験過去問題集 化学 アルケン

 

第102回薬剤師国家試験 問101 解答解説

 

本問では生成物がラセミ体になるか問われているが、反応機構を学ぶ際に立体的な事項を押さえることが大切である。

 

★ 求電子反応・求核反応の生成物がラセミ体となる条件
 ラセミ体とは互いにエナンチオマー(鏡像異性体)である物質の等量混合物である。
求電子反応または求核反応で生成物がラセミ体となる条件は、基質に対して求電子試薬または求核試薬がアクセスする際、左からアクセスするのと右からアクセスするのとで(または上アクセスするのと下からアクセスするのとで)アクセスのしやすさが全く同じで、同じ確率で起こり得ることである。
このことが、生成物において立体的に互いに鏡像異性体であるものが等量ずつ生ずることにつながる。
 ただ、上記の条件を満たすからといって必ずしも生成物がラセミ体となるわけではない。特に、生成物がメソ化合物であることに注意が必要である。メソ化合物は分子内に対称面を持つ化合物のことである。

 

 

★ アルケンを基質とした求電子付加反応
アルケンの反応性について、アルケンのC=Cは電子豊富な構造であるので、アルケンは主に電子を供与する側になりやすい。
このことから、一般に、アルケンでは電子豊富なC=Cに対して求電子試薬が付加する求電子付加反応が起こることが多い。
アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

 

アルケンを基質とする求電子付加反応は求電子試薬によっていくつかの反応に分類されるが、反応ごとの立体的な特徴として、求電子試薬がsyn(シン)付加するかanti(アンチ)付加するのかが重要なポイントである。
大事なことは、求電子試薬がなぜsyn(シン)付加またはanti(アンチ)付加するのか、”反応過程から説明できる”ことである。
また、生成物がメソ化合物か否かの判別もポイントである。

 

 

◆ 1の反応について

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

1の反応はアルケンのヒドロホウ素化−酸化である。

 

アルケンのヒドロホウ素化−酸化については下記のリンク先を参照
アルケンのヒドロホウ素化−酸化 100回問102

 

アルケンのヒドロホウ素化−酸化はアルケンの水和反応の1種であり、C=Cに対してH2OがOHとHに分かれてsyn付加したアルコールが生成する。
1の反応は、下記のように反応が進む。

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

1では主生成物としてCとDが同じ割合で生成すると考えられる。CとDは互いに鏡像異性体の関係であるので、1の主生成物はラセミ体である。
なぜCとDが同じ割合で生成すると考えられるのか、反応の過程から説明する。
BH3(ボラン)のBは空軌道を有するので電子を受け取る求電子試薬またはルイス酸となる。
反応の最初の段階として出発物のアルケンのC=Cに対してBH3(ボラン)が求電子試薬として、BH2とHに分かれるような形でsyn(シン)付加する。syn付加とは立体的に同じ側に付加するということある。
ここでは、BH2とHがゆるくつながったままC=C平面に対して同じ側に付加するのでsyn付加となる。
C=Cに対してBH3(ボラン)が接近するにあたり、C=C平面の上からと下からという2つの接近の仕方があり、接近の仕方によって2つの立体異性体(AとB)が生成する。C=C平面に対するBH3の接近は、上からと下からで同じ確率で起こり得る。よって、中間体のAとBが同じ割合で生成する。

 

次に、AおよびBに対してH2O2,NaOH,H2Oを加えることにより、BH2とOHが置換するような反応が進む。この過程で立体異性体は生じない。よって、AからはC,BからはDが生成することになる。
出発物から中間体のAとBが生成する確率が同じであることが、最終生成物のCとDが同じ割合で生成することにつながり、結果、1の反応の主生成物はラセミ体となる。

 

 

◆ 2の反応について
アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

2の反応はアルケンに過酸(R−C(=O)OOH))が反応し、C=Cに対して酸素がsyn付加したオキシラン(エポキシド)が生成する反応である。ここでのsyn付加とは、2つのC−O結合が立体的に同じ側にという意味である。

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

2の反応では、アルケンA(シクロペンタン)にm-クロロ過安息香酸(m-chloroperoxybenzoic acid:mCPBA)が反応し、Oがsyn付加したBまたはCのオキシラン(エポキシド)が生成する。BとCは分子内に対称面があり、メソ化合物である。よって、BとCは同一化合物である。
したがって、2の生成物はラセミ体ではない。

 

なお、この反応においてアルケンに付加する過酸(R−C(=O)OOH))のO原子は、C(=O)から最も離れた↓のO原子である。国試過去問で問われたことがあるので押さえておこう。

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

 

◆ 3の反応について
アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

アルケンに対するハロゲン分子(X2)の付加については下記のリンク先を参照
アルケンのハロゲン分子(X2)付加 98回問103の2

 

 

3の反応はアルケンにハロゲン分子(X2)が反応し、C=Cに対してXが2つanti付加(trans付加)したものが生成する反応である。

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

上に示すように、
3の反応では、アルケンAに臭素分子(Br2)が反応し、
2つのBrがanti付加(trans付加)したCまたはC´のジブロモ化合物が生成する。
CまたはC´は分子内に対称面があり、メソ化合物である。
よって、CとC´は同一化合物である。
したがって、反応3の生成物はラセミ体ではない。

 

 

◆ 4の反応について
アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

4の反応はアルケンの酸触媒下での水和反応である。

 

アルケンの酸触媒下での水和については下記のリンク先を参照。
アルケンの酸性条件下での水の付加 89回問8d

 

アルケンの酸触媒下での水和反応では、
アルケンのC=Cに対してH2OがHとOHに分かれて付加したアルコールが生成する。
アルケンの酸触媒下での水和反応は、中間体としてより安定なカルボカチオンを経るので、主生成物がマルコフニコフ型となる。

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

反応4ではアルケンAから中間体のカルボカチオンのBを経てCまたはC´が生成するが、主生成物のCとC´は不斉炭素がないのでこれらは同一の化合物である。よって、生成物はラセミ体ではない。

 

ただ、アルケンの酸触媒下での水和反応では、中間体のカルボカチオンにH2Oがアクセスする際、上からアクセスするのと下からアクセスするのとでアクセスのしやすさが全く同じで、同じ確率で起こり得ることである。
よって、アルケンの酸触媒下での水和反応では、生成物に不斉中心ができるならば立体的に互いに鏡像異性体であるものが等量ずつ生ずる可能性はある。反応4の基質では生成物に不斉炭素が生じなかったため、ラセミ体にならなかった。

 

 

◆ 5について
アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

5の反応はアルケンに四酸化オスミウム(OSO4)+NaHSO3(またはH2S)水溶液を反応させることによる、アルケンのsyn−ジヒドロキシ化反応である。C=Cに2つのOHがsyn付加(cis付加)したアルコールが得られる。なお、2つの炭素原子にOHが1つずつ結合したアルコールはグリコールと呼ばれる。

 

アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

反応5ではアルケンAからCまたはC´が生成するが、CまたはC´は分子内に対称面があり、メソ化合物である。よって、CとC´は同一化合物である。
したがって、反応5の主生成物はラセミ体ではない。

 

ただ、アルケンに四酸化オスミウム+NaHSO3(またはH2S)水溶液を反応させるsynジヒドロキシ化では、アルケンにOSO4がアクセスする際、上からアクセスするのと下からアクセスするのとでアクセスのしやすさが全く同じで、同じ確率で起こり得ることである。
よって、この反応では、基質によっては生成物がラセミ体となる可能性はある。反応5のアルケンでは生成物がメソ体であるため、ラセミ体にはならない。

 

★ アルケンに四酸化オスミウム+NaHSO3(またはH2S)水溶液を反応させるジヒドロキシ化がsyn付加である理由
 アルケンに対してOSO4が付加する際、OSO4の2つのOが同じ側に付加する。この2つのOが最終的にOHに置換するようなことになる。よって、アルケンのOSO4を用いたジヒドロキシ化では、2つのOHがsyn付加したアルコールが主生成物となる。

 

 

★ アルケンに四酸化オスミウム(OSO4)+過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)を反応させると、アルケンの酸化的開裂が起こり、アルデヒドまたはケトンが得られる。
アルケン 求電子付加反応 総合問題 ラセミ体(ラセミ化) 102回問101

 

★他サイトさんの解説へのリンク
102回問101(e-RECさん)

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