フェントステープと疼痛緩和治療に関する記述 98回薬剤師国家試験問282,283
98回薬剤師国家試験 問282−283
65歳男性。体重53kg。疼痛緩和治療を受けているがん患者である。
モルヒネの副作用としての便秘がひどくなり、処方変更がなされた。
問282(実務)
疼痛緩和治療に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選びなさい。
1 上記の処方変更は、オピオイドローテーションの一例である。
2 WHO方式3段階がん疼痛治療ラダーの第1段階では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)かペンタゾシンのいずれかが用いられる。
3 フェントステープへの切り替えの際は、レスキュードーズを考慮する必要がある。
4 フェントステープ使用時には、NSAIDsなどの鎮痛補助剤の併用は避けるべきである。
問283(薬剤)
今回処方されたフェントステープに関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選びなさい。
1 支持体、薬物を含む膏体及びライナーから構成される。
2 貼付24時間後も、製剤中に薬物が残存している。
3 膏体を構成するスチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体は、水に不溶である。
4 高温とならない所に保管する。
5 ハサミ等で切って使用しても差しつかえない。
98回薬剤師国家試験 問282(実務) 解答解説
◆ 1について
1 〇 上記の処方変更は、オピオイドローテーションの一例である。
オピオイドローテーションとは、鎮痛効果の増強や副作用の改善などを目的として、オピオイドの種類を変更することである。
経口投与の困難などのため投与経路(製剤)の変更を行うことも、オピオイドローテーションに含まれる。
本問の処方変更は、モルヒネの副作用としての便秘の改善を目的とした、モルヒネの徐放錠からフェンタニルの経皮吸収製剤への変更であるが、これはオピオイドローテーションに該当する。
◆ 2について
2 × WHO方式3段階がん疼痛治療ラダーの第1段階では、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)かペンタゾシンのいずれかが用いられる。
ペンタゾシンはオピオイド鎮痛薬であるので、第1段階では用いられない。
WHO方式3段階がん疼痛治療ラダーは下記のようになる。
WHO方式3段階がん疼痛治療ラダーの第1段階では、非オピオイド鎮痛薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)かアセトアミノフェンのいずれかが用いられる。
ペンタゾシンはオピオイド鎮痛薬であるので、通常、第2段階以降で用いられる。
◆ 3について
3 〇 フェントステープへの切り替えの際は、レスキュードーズを考慮する必要がある。
レスキュードーズとは、定時的に投与する徐放性製剤の鎮痛効果が不十分な場合、不足を補うために速放性製剤を投与することである。
フェントステープのような経皮吸収製剤は、投与後の血中濃度の上昇が緩やかであり、鎮痛効果の発現に時間がかかる。そのため、切り替えの際、フェンタニルの血中濃度が安定するまで、これまで使用していたオピオイド鎮痛薬を一時的に併用する。
それでも十分な鎮痛効果が得られない場合は、痛みの状況に応じたレスキュードーズを考慮する必要がある。
なお、基本的に、レスキュードーズには定時的に服用する徐放性製剤と同成分の速放性製剤を使用するが、
定時的に服用する薬剤がフェンタニルの場合は、レスキューとしてフェンタニルの他、モルヒネやオキシコドンの速放性製剤も使用される。
◆ 4について
4 × フェントステープ使用時には、NSAIDsなどの鎮痛補助剤の併用は避けるべきである。
WHO方式3段階がん疼痛治療ラダーの第2段階、第3段階では、オピオイド鎮痛薬に加え、NSAIDsなどの鎮痛補助剤の併用も可能である。
98回薬剤師国家試験 問283(薬剤) 解答解説
◆ 1について
1 〇 支持体、薬物を含む膏体及びライナーから構成される。
3 〇 膏体を構成するスチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体は、水に不溶である。
一般に、貼付剤は、支持体に膏体が展延され、膏体はライナーと呼ばれるフィルムで保護された構成となっている。
膏体とは有効成分,基剤,その他の添加物を混和して均質としたものであり、
貼付剤に必要な粘着力を持つ。
スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体は、膏体の基剤として用いられ、水に不溶であり、膏体に粘着力を与える。
フェントステープの模式図は下記の通り。
◆ 2について
2 〇 貼付24時間後も、製剤中に薬物が残存している。
フェントステープは貼付24時間後も、製剤中に薬物が残存している。
よって、使用済みを処分する際は、残存する薬物に暴露されないよう、粘着面を内側にして貼り合わせて廃棄する。
◆ 4について
4 〇 高温とならない所に保管する。
高温の場所に保管すると、製剤が変質する恐れがあるので、
高温を避けて保管する。
また、フェントステープの貼付部位の温度が高いと、フェンタニル吸収量が増加し、過量投与になるおそれがあるので、この点からも製剤の温度上昇を避ける必要がある。
◆ 5について
5 × ハサミ等で切って使用しても差しつかえない。
フェントステープは切断して使用することはできない。
フェントステープはマトリックス型経皮吸収製剤である。
マトリックス型経皮吸収製剤の中には切断して使用可能なものはあるが、
フェンタニルの経皮吸収製剤は切断して使用することはできない。
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