シクロヘキサンの立体配座の安定性 置換基のジアキシアル相互作用 94回薬剤師国家試験問9ab
94回薬剤師国家試験 問9ab
シクロヘキサン誘導体A、Bに関する記述の正誤を判定してみよう。
a AとBは、エナンチオマーの関係にある。
b Aの安定ないす形配座において、Cl基はアキシアルに配置する。
94回薬剤師国家試験 問9ab 解答解説
◆ aについて
a × AとBは、エナンチオマーの関係にある。
→ 〇 AとBは、ジアステレオマーの関係にある。
2つの物質が互いにエナンチオマー(鏡像異性体)の関係にあるとは、2つ物質の全ての不斉中心の立体化学が互いに逆であることを指す。エナンチオマーの関係以外の立体異性体にある物質同士は互いにジアステレオマーの関係にあるという。AとBの不斉炭素の立体化学は下記の通り。
AとBは1つの不斉中心のみ立体化学が互いに逆であるので、ジアステレオマーの関係である。
◆ bについて
b 〇 Aの安定ないす形配座において、Cl基はアキシアルに配置する。
シクロヘキサン誘導体の最も安定な配座を考える際のポイントは、
置換基による1,3−ジアキシアル相互作用である。
1,3−ジアキシアル相互作用については、下記のリンク先を参照
シクロヘキサンの安定配座 ジアキシアル相互作用とひずみエネルギー
シクロヘキサン誘導体のいす形配座では、1,3−ジアキシアル相互作用の立体ひずみエネルギーの合計が小さいほど、その配座の安定性は高い。
1,3−ジアキシアル相互作用は、置換基が大きいほど強くなる。
よって、大きな置換基がアキシアル位になる立体配座は、ひずみエネルギーが大きく、安定性が低い。
逆に、大きな置換基がエクアトリアル位になる立体配座は、ひずみエネルギーが小さく、安定性が高い。
Aの物質は下記のTおよびUの立体配座になり得る。
Tの立体配座では、イソプロピル基とメチル基がアキシアル位をとるので、これらの置換基の1,3−ジアキシアル相互作用の立体ひずみが生じる。
Uの立体配座では、塩素原子がアキシアル位をとるので、塩素原子の1,3−ジアキシアル相互作用の立体ひずみが生じる。
イソプロピル基は比較的立体的なサイズが大きい置換基なので、その1,3−ジアキシアル相互作用は相対的に大きいと考えられる。
よって、イソプロピル基とメチル基がエクアトリアル位となるUの配座が最も安定な立体配座であると考えられる。TとUは互いに環反転したもの同士だが、平衡は安定なUに偏る。