薬物代謝酵素の遺伝的多型 95回薬剤師国家試験問156
95回薬剤師国家試験 問156
薬物代謝酵素の遺伝的多型に関する記述のうち、正しいものはどれか。2つ選びなさい。
a 代謝酵素の遺伝的多型によって親薬物の血中濃度時間曲線下面積(AUC)は変化するが、代謝物のAUCは変化しない。
b N−アセチル転移酵素には遺伝的多型が存在し、日本人では約10%がイソニアジドのアセチル化が速い群に属する。
c CYP2C19には遺伝的多型と関係した人種差があり、オメプラゾールのpoor metabolizer(PM)は、白人種と比べて日本人では出現率が高い。
d CYP2D6の遺伝的多型が関与するイミプラミンのPMでは、活性代謝物の生成が増大する。
95回薬剤師国家試験 問156 解答解説
遺伝子多型による薬物代謝酵素活性の高低は、以下のように分類される。
・酵素活性の正常なヒト:extensive metabolizer (EM)
・遺伝子多型により酵素活性の著しく低いヒト:poor metabolizer(PM)
・遺伝子多型によりEMより酵素活性は低いが、低下の割合が低いヒト:intermediate metabolizer(IM)
・遺伝子多型により酵素活性の著しく高いヒト:ultra−rapid metabolizer(UM)
◆ aについて
a × 代謝酵素の遺伝的多型によって親薬物の血中濃度時間曲線下面積(AUC)は変化するが、代謝物のAUCは変化しない。
→ 〇 代謝酵素の遺伝的多型によって親薬物の血中濃度時間曲線下面積(AUC)は変化するが、代謝物のAUCも変化する。
◆ bについて
b × N−アセチル転移酵素には遺伝的多型が存在し、日本人では約10%がイソニアジドのアセチル化が速い群に属する。
→ 〇 N−アセチル転移酵素には遺伝的多型が存在し、日本人では約10%がイソニアジドのアセチル化が遅い群に属する。
イソニアジドは、主にN−アセチル転移酵素2(NAT2)によりアセチル化され、不活化する。
NAT2には遺伝子多型が存在し、
アセチル化反応速度が速い群をrapid acetylator(RA)と呼び、
アセチル化反応速度が遅い群をslow acetylator(SA)と呼ぶ。
日本人では約10%がイソニアジドのSAに属する。
また、白人は50〜60%がイソニアジドのSAである。
◆ cについて
c ○ CYP2C19には遺伝的多型と関係した人種差があり、オメプラゾールのpoor metabolizer(PM)は、白人種と比べて日本人では出現率が高い。
オメプラゾール,ランソプラゾールなどのプロトンポンプ阻害薬は、
主にCYP2C19で代謝される。
よって、CYP2C19のPMでは、オメプラゾールの代謝が低下して薬効が増強し、
CYP2C19のUMでは、オメプラゾールの代謝が増大して薬効が減弱する。
CYP2C19のPMの出現率は欧米人では5〜10%であるが、日本人では約20%であり、
日本人の方が欧米人よりもCYP2C19のPMの出現率が高い。
◆ dについて
d ○ CYP2D6の遺伝的多型が関与するイミプラミンのPMでは、活性代謝物の生成が増大する。
イミプラミン(トフラニール)は、CYP2D6で代謝されると不活化されるが、
CYP1A2,CYP3A4,CYP2C19で代謝されると、活性代謝物であるデシプラミンとなる。
よって、CYP2D6の遺伝子多型が関与するイミプラミンのPMでは、
CYP1A2,CYP3A4,CYP2C19で代謝されやすくなるので、
活性代謝物のデシプラミンの血中濃度が高くなる。