マトリックス表面からの薬物の放出とHiguchi式 85回薬剤師国家試験問169
85回薬剤師国家試験 問169
不溶の高分子マトリックス中に薬物を分散させたとき、水中におけるマトリックス表面からの薬物の放出は次の(1)式に従うものとする。
Q = [D・(2A−Cs)Cs・t]1/2 (1)
Q:t時間後におけるマトリックスの単位面積あたりの累積薬物放出量
D:マトリックス中の薬物の拡散係数
A:マトリックス中の単位容積あたりの薬物量
Cs:マトリックス中の薬物の溶解度
次のa〜dの記述のうち、正しいものはどれか。2つ選びなさい。
a 薬物放出の初期においては、累積薬物放出量は時間の平方根に対して直線となる。
b 薬物放出速度は時間の平方根に対して直線となる。
c A≫Csのとき、(1)式は次式に近似できる。
Q=[2A・D・t]1/2
d (1) 式は、薬物がマトリックス中に溶解し、その表面から放出されると仮定して導かれる。
85回薬剤師国家試験 問169 解答解説
a 〇 薬物放出の初期においては、累積薬物放出量は時間の平方根に対して直線となる。
b × 薬物放出速度は時間の平方根に対して直線となる。
c × A≫Csのとき、(1)式は次式に近似できる。
Q=[2A・D・t]1/2
→ 〇 A≫Csのとき、(1)式は次式に近似できる。
Q=[2A・D・Cs ・t]1/2
d 〇 (1) 式は、薬物がマトリックス中に溶解し、その表面から放出されると仮定して導かれる。
マトリックス型放出制御製剤のうち、投与後もマトリックス構造が維持されたまま、マトリックス内を薬物が拡散し、表面から放出されるタイプの製剤がある。これに該当するものとして、不溶性マトリックス型経口投与製剤やマトリックス型経皮吸収製剤が挙げられる。
このタイプのマトリックス型製剤では、薬物のマトリックス内の拡散が薬物溶出の律速となり、薬物が放出されていくのに伴い、マトリックス内の薬物が残存する層が後退していくので、投与からの経過時間が長くなるほど、薬物が放出されるまでにマトリックス内を拡散する距離が長くなる。
よって、このタイプの製剤では、投与からの時間が長くなるほど、単位経過時間当たりの薬物放出量が低下する。
上記のマトリックス型放出制御製剤からの薬物放出機構を考慮し、Fickの第1法則を適用すると、
設問の(1)式が導かれる。(1)式はHiguchi(ヒグチ)式と呼ばれる。
Q = [D・(2A−Cs)Cs・t]1/2 (1)
Q:t時間後におけるマトリックスの単位面積あたりの累積薬物放出量
D:マトリックス中の薬物の拡散係数
A:マトリックス中の単位容積あたりの薬物量
Cs:マトリックス中の薬物の溶解度
マトリックス内に固体薬物が分散している場合、A≫Csであるため、
(1)式は次式に近似できる。
Q=[2A・D・Cs ・t]1/2
よって、マトリックス型放出制御製剤において、
薬物放出がHiguchi(ヒグチ)式に従うとき、
時間tまでの単位面積当たりの累積薬物放出量は、
時間tの平方根(√t)に比例する。
なお、マトリックス型放出制御製剤であっても、マトリックス自体が溶解もしくは浸潤するのに伴い薬物を放出するタイプの製剤では、上記のような薬物放出を示さない。
関連問題
・薬物放出がHiguchi式に従うときの溶出試験のグラフ 98回問179