酸性薬物フロセミドの分配係数・pka 101回薬剤師国家試験問205
第101回薬剤師国家試験 問205
74歳男性。意識障害のため救急搬送されてきた。水分貯留をともなう高血圧性緊急症と診断され、治療方針を話し合う中でニカルジピン塩酸塩とフロセミドの投与が検討された。
処方薬の物性を測定する目的で、種々のpHで水溶液(50μg/mL)を調製し、その5mL ずつに、それぞれ1-オクタノール5mL を加えてよく振り混ぜ、分配平衡に達した後、水層中の薬物濃度を測定した。以下の表は、処方されたどちらかの薬物の結果である。この結果に関する記述1〜5の正誤を判定してみよう。
ただし、この薬物は1-オクタノールとの相互作用を起こさず、また、イオン形薬物の1-オクタノールへの分配は起こらないものとする。
1 塩基性薬物ニカルジピンの測定結果である。
2 酸性薬物フロセミドの測定結果である。
3 この薬物の分配係数は、約10である。
4 この薬物のpKaは、約6.0である。
5 この薬物のpKaは、約4.0である。
第101回薬剤師国家試験 問205 解答解説
正しい記述は、2と5である。
弱電解質における分配平衡に関する問題である。
弱電解質における、
水相のpHの変化に対する分配の変化については、
下記のリンク先を参照
弱酸,弱塩基におけるpH変化に対する分配の変化 87回問16d
◆ 記述1,2について
1 × 塩基性薬物ニカルジピンの測定結果である。
2 〇 酸性薬物フロセミドの測定結果である。
☆ 弱酸性物質における水相のpHの変化に対する分配比の変化
水相のpHが低下
→ 水相の分子形HAの存在比が高くなる
→ 有機相に移行する分子形HAの量が増える
→ 見かけの分配係数(分配比)Dが高くなる
水相のpHが上昇
→ 水相の分子形HAの存在比が低くなる
→ 有機相に移行する分子形HAの量が減る
→ 見かけの分配係数(分配比)Dが低くなる
☆ 弱塩基性物質における水相のpHの変化と分配の変化
水相のpHが低下
→ 水相の分子形Bの存在比が低くなる
→ 有機相に移行する分子形Bの量が減る
→ 見かけの分配係数(分配比)Dが低くなる
水相のpHが上昇
→ 水相の分子形Bの存在比が高くなる
→ 有機相に移行する分子形Bの量が増える
→ 見かけの分配係数(分配比)Dが高くなる
以上が弱酸,弱塩基における水相のpH変化に対する
分配の変化の様子である。
設問の表のデータを基に、
問題の薬物について水層のpH変化に対する分配の変化を読み取る。
表の水層中の薬物濃度は、分子形濃度とイオン形濃度の合計(全濃度)であることに注意。
本問では、水相に溶解していない分は全て有機相(1−オクタノール相)に溶解していると仮定すると、
あるpHにおける有機相の薬物濃度は次式で計算できる。
上式で有機相中の薬物濃度を計算すると下記の結果になる。
単位はμg/mLである。
上記の表より、
この薬物においては、
水相のpHが低いほど有機相中の濃度が高く、
水相のpHが高いほど有機相中の濃度が低いといえる。
よって、この薬物においては、
pHが低いほど分子形の存在比が高くてイオン形の存在比が低く、
pHが高いほど分子形の存在比が低くてイオン形の存在比が高い、
といえる。
したがって、
この薬物は酸性薬物のフロセミドだと考えられる。
下図は1価の弱酸性物質における溶液のpHと分子形(HA)および陰イオン形(A−)の存在比の関係を示す曲線である。
なお、1価の弱塩基性物質では、溶液のpHと分子形(B)および陽イオン形(BH+)の存在比の関係は下の図のようになる。
◆ 記述3について
3 × この薬物の分配係数は、約10である。
→ 〇 この薬物の分配係数は、約100である。
☆ 真の分配係数KD
水相−有機相の二液相における分配平衡について、
溶質の分子形が有機相と水相に分配され、
平衡状態では有機相の分子形濃度と水相の分子形濃度の比が真の分配係数KDの値と等しくなるよう溶質が分配される。
添え字のwは水相,oは有機相を表すとする。
上記の分配平衡の平衡定数を真の分配係数KDと呼び、次式が成り立つ。
真の分配係数KDは、使用する有機溶媒,温度,圧力が一定ならば、溶質に固有の値を示す。
分配係数KDを計算するには、
いずれかのpHにおける水相の分子形濃度と有機相中の分子形濃度の両方がわかっている必要がある。
先ほどの表のデータから、
いずれかのpHについて水相と有機相の分子形濃度を割り出す。
フロセミドが弱電解質であることから、
本問の水層中の薬物濃度について次式が成り立つ。
水層中の薬物濃度 = 分子形濃度 + イオン形濃度
弱酸性物質は、pHがpKaより2以上低い値(pH≦pKa−2)では、ほとんど分子形として(分率99%以上で)存在する。
詳細は下記のリンク先を参照
弱酸性物質におけるpHの変化に対する分子形・イオン形の存在比の変化
このことから、弱酸性物質のフロセミドがほとんど分子形となるpHのデータを探す。
表の水層中の薬物濃度を見ると、pH1と2では水層中の薬物濃度が同じ値となっている。これは、pH2以下において、フロセミドはほとんど分子形で存在することを示す。
よって、フロセミドについて、
pH2以下では、
水層中の薬物濃度≒水層中の分子形濃度
と考えられる。
したがって、pH1または2のデータを用いて、
真の分配係数KDを次のように計算できる。
◆ 記述4,5について
「5 この薬物のpKaは、約4.0である。」
が正しい。
ここでは、真の分配係数KDと分配比D(見かけの分配係数)を用いて弱酸性物質のpKaを求めてみる。
・ 弱酸の見かけの分配係数(分配比)
弱酸の見かけの分配係数(分配比)とは、
分配平衡に達した時の、
水相の全濃度に対する有機相の全濃度である。
弱酸の全濃度とは、分子形濃度とイオン形濃度の和である。
一般に、有機相にイオン形は移行しないと考えるので、
弱酸の見かけの分配係数は下記の通り。
また、弱酸の見かけの分配係数(分配比D)は、真の分配係数KDとHAの酸解離定数Kaと水素イオン濃度[H+]により下記のように変換される。
上式は、弱酸性物質HAにおける、真の分配係数KD,分配比D,pH,pKaの関係式である。
分配比の式の変換については下記のリンク先を参照
弱酸性物質の分配比とpH・pKaの関係
上式にpH=pKaを代入すると、
よって、
言い換えると、
このことを用いて、本問では、
フロセミドのpKaを割り出すことができる。
フロセミドのKDは99であるので、
各pHでのフロセミドの分配比Dを計算し、
pH4の時の分配比Dを計算すると、
フロセミドのpKaは約4だと考えられる。
なお、弱塩基性物質の分配比については、
下記のリンク先を参照。
弱塩基性物質の分配比 へ
★参考外部サイトリンク
分配平衡(yakugaku labさん)
★他サイトさんの解説へのリンク
101回問205(e-RECさん)