ロイシン,グルタミン酸,アルギニンの等電点と電荷 106回薬剤師国家試験問95
第106回薬剤師国家試験 問95
アミノ酸は両性化合物であり、その等電点(pI)と電荷はイオン交換クロマトグラフィーや等電点電気泳動における分離挙動を決定する因子となる。下に3つのアミノ酸の構造式とpKa 値を示す。これらのアミノ酸の等電点と電荷に関する記述の正誤を判定してみよう。
1 アミノ酸AのpIは、約5.98である。
2 アミノ酸BのpIは、約5.61である。
3 アミノ酸Aは、pH 2.33の緩衝液中では負電荷を持つ。
4 アミノ酸Bは、pH 5.61の緩衝液中では正電荷を持つ。
5 アミノ酸Cは、pH 3.22の緩衝液中では正電荷を持つ。
第106回薬剤師国家試験 問95 解答解説
◆ 1,3について
アミノ酸Aは中性アミノ酸のロイシンである。
中性アミノ酸の荷電と等電点については下記のリンク先を参照
中性アミノ酸のpHの変化に対する化学種の存在比(割合),荷電と等電点 へ
下の図は、ロイシンの溶液のpHの変化に対する各化学種の存在割合の変化を示す。
構造式のRは側鎖である。
以上を踏まえ、設問の記述1,3を解説する。
◆ 1の記述
1 〇 アミノ酸AのpIは、約5.98である。
等電点(pI)とは、大部分が電荷0の化学種として存在し、見かけ上電荷を持たなくなるpHのことである。
中性アミノ酸の等電点(pI)は、
(pKa1+pKa2)/2 で算出できる。
よって、中性アミノ酸のロイシンの等電点(pI)は、
(2.36+9.60)/2=5.98
◆ 3の記述
3 × アミノ酸Aは、pH 2.33の緩衝液中では負電荷を持つ。
先ほどのロイシンにおける溶液のpHと化学種の割合の図より、ロイシンでは点AのpH=pKa1=2.36において、電荷+1の化学種と電荷0の化学種で50%ずつを占める。点Aよりわずかに酸性側のpH=2.36では、電荷+1の化学種の割合が50%を少し上回り、残りは電荷0が占める。よって、pH2.36の緩衝液中では、ロイシンは負電荷を持たない。
◆ 2,4について
アミノ酸Bは塩基性アミノ酸のアルギニンである。
塩基性アミノ酸のうちのアルギニンとリシンの荷電と等電点については下記のリンク先を参照
塩基性アミノ酸のうちのL-リシンとL-アルギニンのpHの変化に対する化学種の存在比(割合),荷電と等電点 へ
下の図は、アルギニンの溶液のpHの変化に対するの各化学種の存在割合の変化を示す。
◆ 2の記述
2 × アミノ酸BのpIは、約5.61である。
塩基性アミノ酸の等電点(pI)は、
(pKa2+pKR)/2 で算出できる。
よって、塩基性アミノ酸のアルギニンの等電点(pI)は、
(9.04+12.48)/2=10.76
◆ 4の記述
4 〇 アミノ酸Bは、pH 5.61の緩衝液中では正電荷を持つ。
先ほどのアルギニンにおける溶液のpHと化学種の割合の図より、アルギニンは点DのpH=(pKa1+pKa2)/2≒5.61において、電荷+1の化学種がほぼ100%を占める。よって、pH5.61の緩衝液中では、アルギニンは正電荷を持つ。
◆ 5について
アミノ酸Cは酸性アミノ酸のグルタミン酸である。
酸性アミノ酸の荷電と等電点については下記のリンク先を参照
酸性アミノ酸のpHの変化に対する化学種の存在比(割合),荷電と等電点 へ
下の図は、グルタミン酸の溶液のpHの変化に対する各化学種の存在割合の変化を示す。
◆ 5の記述
5 × アミノ酸Cは、pH 3.22の緩衝液中では正電荷を持つ。
先ほどのグルタミン酸における溶液のpHと化学種の割合の図より、グルタミンは点DのpH=(pKa1+pKa2)/2=3.22において、電荷0の化学種がほぼ100%を占める。よって、pH3.22はグルタミン酸の等電点(pI)である。したがって、グルタミン酸はpH3.22の緩衝液中では見かけ上電荷を持たない。