pH と弱電解質Aの分子形とイオン形の溶解平衡時の濃度の関係 104回薬剤師国家試験問170
104回薬剤師国家試験 問170
25 ℃において固相が十分に存在する条件下、pH と弱電解質Aの分子形とイオン形の溶解平衡時の濃度の関係を図に表した。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。ただし、弱電解質Aの分子形とイオン形の溶解平衡時の濃度比はHenderson−Hasselbalch の式に従い、弱電解質Aの溶解やpH 調整に伴う容積変化は無視できるものとする。
必要ならば、log2 = 0.30、log3= 0.48、101/2=3.2 を用いて計算せよ。
1 弱電解質Aは弱酸性化合物である。
2 弱電解質AのpKaは2.0である。
3 25 ℃において、pH7.0のときの弱電解質Aの溶解度は、pH6.0のときの溶解度の約10倍になると予想される。
4 25℃において、pH1.0のときの弱電解質Aの溶解度は、pH2.0のときの溶解度の約1/10倍になると予想される。
5 25℃において、弱電解質A 5mg を水1mL に分散させたとき、pH 5.5以上になると全量が溶解すると予想される。
104回薬剤師国家試験 問170 解答解説
◆ 1について
1 〇 弱電解質Aは弱酸性化合物である。
下記の弱酸性電解質の酸塩基反応に関して、
HA ⇔ H+ + A−
HA:分子形 A−:イオン形
弱酸性電解質のHenderson−Hasselbalch の式は次のように表される。
上式より、弱酸性電解質におけるpHの変化に対する各化学種の存在割合(存在比)の変化は下記の通り。
・弱酸性物質では、pHが上昇するのに伴い、分子形(HA)の存在割合は低下し、陰イオン形(A−)の存在割合は低下する。
・弱酸性物質では、pHが低下するのに伴い、分子形(HA)の存在割合は上昇し、陰イオン形(A−)の存在割合は低下する。
設問の図より、
pHの上昇に対してイオン形の濃度が上昇していることから、
Aは弱酸性化合物だと考えられる。
下記は本問の弱酸性電解質Aの溶解平衡のイメージ図である。
◆ 2について
2 × 弱電解質AのpKaは2.0である。
→ 〇 弱電解質AのpKaは4.0である。
先述のA式より、
よって、弱電解質ではpH=pkaの時、
分子形の濃度とイオン形の濃度が等しくなる。
このことから、
分子形の濃度とイオン形の濃度が等しくなるpHがpKaであるといえる。
設問の図より、
分子形の濃度とイオン形の濃度が等しくなるpHは4であるので、
弱電解質AのpKaは4であるといえる。
◆ 3について
3 〇 25 ℃において、pH7.0のときの弱電解質Aの溶解度は、pH6.0のときの溶解度の約10倍になると予想される。
物質の溶解度は、その物質の飽和溶液における全ての化学種の濃度の総和に等しい。
弱電解質の飽和溶液における分子形の濃度とイオン形の濃度をそれぞれ[分子形]飽,[イオン形]飽と表すとすると、この弱電解質の溶解度は次式で表される。
弱電解質の溶解度= [分子形]飽 + [イオン形]飽
弱電解質の溶解度は溶液のpHによって変化する。
弱電解質の飽和溶液における分子形の濃度([分子形]飽)はpHによって変化せず一定値である。
一方、弱電解質の飽和溶液におけるイオン形の濃度([イオン形]飽)はpHによって変化する。
よって、弱電解質の溶解度がpHによって変化するのは、[イオン形]飽がpHによって変化するためである。
飽和溶液のイオン形濃度とpHの関係式は次のように導出される。
分子形の飽和濃度はpHによらず一定であり、
弱電解質Aの分子形の飽和濃度は図より0.1mg/mLである。
よって、25 ℃、pH7.0のとき、Aの溶解度は、
溶解度= [分子形]飽 + [イオン形]飽
= 0.1(mg/mL) + 100(mg/mL)
= 100.1(mg/mL)
25 ℃、pH6.0のとき、
イオン形の飽和濃度は図より10(mg/mL)である。
よって、25 ℃、pH6.0のとき、Aの溶解度は、
溶解度= [分子形]飽 + [イオン形]飽
= 0.1(mg/mL) + 10(mg/mL)
= 10.1(mg/mL)
したがって、
25 ℃において、pH7.0のときの弱電解質Aの溶解度は、pH6.0のときの溶解度の約10倍になると予想される。
◆ 4について
4 × 25℃において、pH1.0のときの弱電解質Aの溶解度は、pH2.0のときの溶解度の約1/10倍になると予想される。
25 ℃、pH1.0のとき、
イオン形の飽和濃度はB式より、
よって、25 ℃、pH7.0のとき、Aの溶解度は、
溶解度= [分子形]飽 + [イオン形]飽
= 0.1(mg/mL) + 0.0001 (mg/mL)
= 0.1001(mg/mL)
25 ℃、pH2.0のとき、
イオン形の飽和濃度は図より0.001(mg/mL)である。
よって、25 ℃、pH6.0のとき、Aの溶解度は、
溶解度= [分子形]飽 + [イオン形]飽
= 0.1(mg/mL) + 0.001(mg/mL)
= 0.101(mg/mL)
したがって、選択肢4の記述
「25℃において、pH1.0のときの弱電解質Aの溶解度は、pH2.0のときの溶解度の約1/10倍になると予想される」は誤りである。
◆ 5について
5 × 25℃において、弱電解質A 5mg を水1mL に分散させたとき、pH 5.5以上になると全量が溶解すると予想される。
pH 5.5の時のAの溶解度を求めてみる。
そのためには、
弱酸性電解質の溶解度CsとpH,pKaの関係式が必要となるが、
それは次のように導出できる。
弱酸性電解質の溶解度Cs = [HA]飽 + [A−]飽
であるが、
ここで、酸解離平衡定数Kaの式
ここで、
pH=−log[H+] より −pH=log[H+]
および
pKa=−logKa より −pKa=logKa
logYX=Z ⇔ X=YZであるので、
[H+]=10−pH Ka=10−pka
である。
以上より、
弱酸性電解質の溶解度CsとpH,pkaの関係式として、
次のB式が成り立つ。
溶解度Cs = [HA]飽( 1 + 10 pH−pka )…B
B式を用い、pH=5.5の時のAの溶解度を求める。
溶解度Cs = [HA]飽( 1 + 10 pH−pka )…B より、
Cs = 0.1mg/mL( 1 + 10 5.5−4 )
Cs = 0.1mg/mL( 1 + 10 1.5 )
Cs = 0.1mg/mL( 1 + 10 1×100.5 )
101/2=3.2より、
Cs = 0.1mg/mL( 1 + 10 ×3.2 )
Cs = 3.3mg/mL
したがって、
25℃において、弱電解質A 5mg を水1mL に分散させたとき、pH 5.5では全量が溶解しない。
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