108回薬剤師国家試験問175 弱電解質の溶解平衡
108回薬剤師国家試験 問175
25 ℃において、水0.1Lに一定量の一価の弱電解質の薬物結晶を加えた。pHを変化させて溶解平衡に達したとき、pH5からpH8における溶液中の薬物の総濃度と分子形薬物濃度がグラフのようになった。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
ただし、薬物の分子形とイオン形の溶解平衡時の濃度比はHenderson-Hasselbalchの式に従い、薬物の溶解やpH 調整に伴う容積変化は無視できるものとする。
1 用いた薬物は1.1mol である。
2 薬物は弱酸性化合物である。
3 薬物のpKaは5である。
4 pH7のとき、薬物の分子形濃度とイオン形濃度の比は1:10である。
5 pH8のとき、薬物の結晶が液中に存在する。
108回薬剤師国家試験 問175 解答解説
◆ 2,5について
2 〇 薬物は弱酸性化合物である。
5 × pH8のとき、薬物の結晶が液中に存在する。
pH7で薬物の結晶は消失する。
左側の図より、pH5〜7では、pHの上昇に伴い、薬物の総濃度が上昇している。
また、右側の図より、pH5〜7では、pHが上昇しても、分子形薬物濃度は一定である。
これらのことから、本問の薬物は弱酸性電解質であり、
pHが7以下では、溶けきれなかった薬物の結晶が存在している飽和溶液であり、pHの上昇に伴い、薬物のイオン形の溶解度が上昇し、薬物の総濃度が上昇することを示す。
よって、pH7以下では、
下記のように1価の弱酸性電解質の溶解平衡が成立している。
溶解平衡が成立する飽和溶液の薬物濃度を溶解度と呼ぶ。
1価の弱酸性電解質では、
分子形の溶解度はpHによらず一定であり、
イオン形の溶解度はpHの上昇に伴い上昇する。
飽和溶液である間は、pHが上昇すると、イオン形の溶解度が上昇し、それに伴い、結晶が分子形として溶け出し、分子形の濃度は分子形の溶解度の値で一定に保たれる。
左側の図では、pH7を境に、pHが上昇しても、薬物の総濃度が変化せず一定となっている。
また、右側の図では、pH7を境に、pHの上昇に伴い、分子形濃度が低下している。
このことから、pH7で薬物の結晶が消失し、
pH7を超えると、飽和溶液ではなくなり、
pHの上昇に伴い、分子形の濃度は低下し、イオン形の濃度は上昇することを示す。
◆ 1について
1 × 用いた薬物は1.1mol である。
→ 〇 用いた薬物は0.11mol である。
用いた薬物の全量を知るには、薬物が全て溶解した状態の総濃度を知る必要がある。
本問の薬物溶液は、pH7以上で、薬物の結晶が消失し、薬物が全て溶解した状態となる。
よって、左側の図より、薬物が全て溶解した状態の総濃度は1.1mol/Lと読み取れる。
薬物を水0.1Lに溶解させていることから、
用いた薬物の全量は、
0.1L × 1.1mol/L = 0.11mol
と計算される。
◆ 3について
3 × 薬物のpKaは5である。
→ 〇 薬物のpKaは6である。
本問の薬物の分子形とイオン形の溶解平衡時の濃度比は、
下記の弱酸性電解質のHenderson-Hasselbalchの式に従う。
上式より、1価の弱酸性電解質のpKaは、
分子形濃度とイオン形濃度が1:1となる溶液のpHに等しい。
よって、溶解平衡が成立する1価の弱酸性電解質の飽和溶液において、
薬物の総濃度 = 2×分子形の溶解度
となる溶液のpHは、pKaに等しいことになる。
右側の図より、分子形の溶解度は0.10mol/Lであるので、
2×分子形の溶解度 = 0.20mol/Lである。
左側の図より、薬物の総濃度が0.20mol/LとなるpHは6である。
したがって、本問の薬物のpKaは6である。
◆ 4について
4 〇 pH7のとき、薬物の分子形濃度とイオン形濃度の比は1:10である。
本問の薬物のpKaは6であるので、
弱酸性電解質のHenderson-Hasselbalchの式より、
pH7の時の分子形濃度とイオン形の比は下記のように計算できる。
よって、pH7のとき、薬物の分子形濃度とイオン形濃度の比は1:10である。
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