サンディミュンとネオーラルの特徴 103回薬剤師国家試験問278,279
103回薬剤師国家試験 問278−279
36歳女性。腎移植目的で入院となった。移植に伴いサンディミュンカプセル、ミコフェノール酸モフェチルカプセル、メチルプレドニゾロン錠を術前より内服することとなり、担当薬剤師が指導を開始した。移植手術は無事に終了し医師の指示によりサンディミュンカプセルをネオーラルカプセルに切り替えることになり、引き続き担当薬剤師が指導を継続することになった。
問278(実務)
薬剤師がこの患者に行う術前、術後の服薬指導として、適切でないのはどれか。2つ選びなさい。
1 これらの薬を飲んでいる間は、こまめに手洗いをしてください。
2 抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなるので、麻疹や風疹などのワクチン接種をしておきましょう。
3 シクロスポリンは血液中の薬の濃度を測りながら服用する量を決めますので、血液検査が多くなります。
4 グレープフルーツジュースはシクロスポリンの効果を弱めてしまいますので、飲まないでください。
5 薬を切り替える時には副作用がでることがありますので、気になることがあれば言ってください。
問279(薬剤)
術前に服用していたシクロスポリンの油性製剤と術後に処方された自己乳化型マイクロエマルション製剤の特徴に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、バイオアベイラビリティが高い。
2 いずれも消化管液中でw/o 型エマルションが形成される。
3 自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、薬の吸収に対する食事の影響が小さい。
4 自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、油相と水相の間の界面張力が大きいため、液滴が微細化される。
5 シクロスポリンは水溶性が高いため、主にエマルションの水相に分配する。
103回薬剤師国家試験 問278(実務) 解答解説
◆ 1について
1 〇 これらの薬を飲んでいる間は、こまめに手洗いをしてください。
シクロスポリンは免疫抑制剤であるため、服薬中は感染症に罹患しやすくなる。
よって、シクロスポリン製剤を服薬中は、こまめに手洗い・うがいをしたり、極力人混みを避けるなど、より一層の感染予防に励む必要がある。
◆ 2について
2 × 抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなるので、麻疹や風疹などのワクチン接種をしておきましょう。
免疫抑制剤を服用中に生ワクチンを接種すると、ワクチンとして接種した細菌やウイルスが増殖し、病原性をあらわす可能性がある。よって、免疫抑制剤を服用中は、麻疹や風疹などの生ワクチンを接種できない。
◆ 3について
3 〇 シクロスポリンは血液中の薬の濃度を測りながら服用する量を決めますので、血液検査が多くなります。
シクロスポリン製剤の投与にあたっては、適応症によらず、血中トラフ値を測定し、投与量を調節することとされている。
臓器移植患者に投与する際には、過量投与による副作用の発現及び低用量投与による拒絶反応の発現等を防ぐため、血中濃度の測定を移植直後は頻回に行い、その後は1ヵ月に1回を目安に測定し、投与量を調節することとされている。
◆ 4について
4 × グレープフルーツジュースはシクロスポリンの効果を弱めてしまいますので、飲まないでください。
→ 〇 グレープフルーツジュースはシクロスポリンの効果を強めてしまうので、避けることが望ましい。
シクロスポリンは主としてCYP3A4で代謝される。
シクロスポリンを服薬中にグレープフルーツジュースを飲むと、グレープフルーツジュースの成分により腸管のCYP3A4が阻害され、シクロスポリンの血中濃度が上昇することがある。
そのため、シクロスポリンを服薬中は、グレープフルーツジュースを避けることが望ましい。
また、シクロスポリンを服薬中にセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品を摂取すると、セイヨウオトギリソウの成分によりCYP3A4が誘導され、シクロスポリンの血中濃度が低下することがある。
そのため、シクロスポリンを服薬中は、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品を摂取してはならない。
◆ 5について
5 〇 薬を切り替える時には副作用がでることがありますので、気になることがあれば言ってください。
サンディミュンからネオーラルに切り換えて投与する場合は、ネオーラルの方がバイオアベイラビリティは高いため、シクロスポリンの血中濃度が上昇して副作用を発現するおそれがあるので、切り換え前後で血中濃度の測定及び臨床検査(血清クレアチニン、血圧等)を頻回に行うとともに患者の状態を十分観察し、必要に応じて投与量を調節することとされている。
103回薬剤師国家試験 問279(薬剤) 解答解説
術前に服用していたシクロスポリンの油性製剤(サンディミュン)と術後に処方された自己乳化型マイクロエマルション製剤(ネオーラル)の特徴に関する記述のうち、正しいのは、
選択肢1の「自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、バイオアベイラビリティが高い。」と、選択肢3の「自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、薬の吸収に対する食事の影響が小さい。」である。
ネオーラルカプセルは、投与前のカプセル内部は油性溶液であるが、投与後に消化管内で水と混合されると、
添加されていた界面活性剤がミセルを形成し、その内部に脂溶性のシクロスポリンを含む油滴が取り込まれる。
このようにネオーラルは、投与後、消化液中で自発的に薬剤の成分だけでも微細な油滴を形成でき、o/w型エマルションとなるよう設計されていることから、自己乳化型マイクロエマルション製剤と呼ばれる。
ネオーラルはサンディミュンに比べて、シクロスポリンの消化管からの吸収性が良く、また、吸収に対する胆汁酸分泌量や食事の影響が小さくなっている。
◆ 選択肢2,4,5について
2 × いずれも消化管液中でw/o 型エマルションが形成される。
4 × 自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、油相と水相の間の界面張力が大きいため、液滴が微細化される。
→ 〇 自己乳化型マイクロエマルション製剤の方が、油相と水相の間の界面張力が小さいため、液滴が微細化される。
5 × シクロスポリンは水溶性が高いため、主にエマルションの水相に分配する。
→ 〇 シクロスポリンは脂溶性が高いため、主にエマルションの油相に分配する。
ネオーラルカプセルは、先述の通り、消化管液中でo/w型エマルションを形成する。
また、添加物の界面活性剤の作用により、カプセル内容物の油滴と消化管液との界面張力が小さくなるため、油滴は10nm〜100nmに微細化される。
一方、サンディミュンカプセルは、界面活性剤が添加されていないため、カプセル崩壊後、内容物は消化管液中で大きな油滴となる。これは、カプセル内容物の油相と消化管液の水相との間の界面張力が大きいためである。
その後、サンディミュンの内容物は、胆汁酸のミセルに取り込まれ、消化管液に乳化する(乳化後はo/w型エマルションだといえる)。
ネオーラルは、液滴のサイズが非常に小さいマイクロエマルションであるため、サンディミュンに比べてシクロスポリンのバイオアベイラビリティが高い。
また、ネオーラルは、胆汁酸によらず添加物の界面活性剤で乳化されるため、吸収に対する胆汁酸分泌量や食事の影響が小さくなっている。
関連問題
ネオーラルカプセルの製剤学的工夫と服薬指導 106回問284,285
★ 他サイトさんの解説リンク
103回問278,279(e-RECさん)