薬物のリンパ系への移行に関する記述 96回薬剤師国家試験問153
96回薬剤師国家試験 問153
薬物のリンパ系への移行に関する記述のうち、正しいものはどれか。2つ選びなさい。
a リンパ液の流速は血流速度の数百分の一と遅いが、リンパ系を介する薬物の組織分布は血管系を介するものとほぼ等しい。
b リンパ系に移行した薬物がもとのリンパ液中に戻り、循環を繰り返す可能性は低い。
c 筋肉内に投与した薬物がリンパ系、血管系のどちらに吸収されるかは分子量に依存し、その境界の分子量は約30000である。
d 消化管からリンパ系を介して吸収された薬物は、肝初回通過効果を受けない。
96回薬剤師国家試験 問153 解答解説
◆ aについて
a × リンパ液の流速は血流速度の数百分の一と遅いが、リンパ系を介する薬物の組織分布は血管系を介するものとほぼ等しい。
→ 〇 リンパ液の流速は血流速度の数百分の一と遅いので、リンパ系を介する薬物の組織分布は血管系を介するものより時間がかかる。
リンパ液の流速は、血流の1/200〜1/500であり、
1日に1〜2Lのリンパ液が全身を循環している。
よって、リンパ系に移行した薬物は、
血液循環系へ移行した薬物に比べ、ゆっくりと全身に分布する。
◆ bについて
b ○ リンパ系に移行した薬物がもとのリンパ液中に戻り、循環を繰り返す可能性は低い。
リンパ液は、毛細血管から血漿成分が漏出してできる組織液が、毛細リンパ管に入った液体である。
リンパ液の大まかな流れは、
末梢組織の毛細リンパ管→集合リンパ管→リンパ節→胸管または右リンパ本幹→静脈
と一方向である。
リンパ管には弁があり逆流を防いでいる。
よって、リンパ系に移行した薬物がもとのリンパ液中に戻る可能性は低い。
◆ cについて
c × 筋肉内に投与した薬物がリンパ系、血管系のどちらに吸収されるかは分子量に依存し、その境界の分子量は約30000である。
→ 〇 筋肉内に投与した薬物がリンパ系、血管系のどちらに吸収されるかは分子量に依存し、その境界の分子量は約5000である。
毛細リンパ管内皮細胞は密着結合を形成していない。
そのため、毛細リンパ管は、毛細血管に比べて細胞間隙が広く、より大きな分子が透過できる。
薬物が筋肉内投与や皮下投与などで組織間隙中に投与された場合、
分子量5000以下の薬物は、毛細リンパ管よりも毛細血管に移行しやすく、
分子量5000以上の薬物は、毛細血管へは移行せず、毛細リンパ管に移行する。
◆ dについて
d ○ 消化管からリンパ系を介して吸収された薬物は、肝初回通過効果を受けない。
リンパ系に移行した薬物は、胸管または右リンパ本幹を経て静脈に入るが、
門脈を経ずに全身循環血に入ることになる。
よって、消化管からリンパ系を介して吸収された薬物は、
肝初回通過効果を受けずに全身循環系に到達する。