薬物の消化管吸収に関する記述 108回薬剤師国家試験問168
108回薬剤師国家試験 問168
薬物の消化管吸収に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選びなさい。
1 小腸下部から吸収された薬物は門脈を介さずに全身循環へ移行する。
2 P-糖タンパク質に認識される薬物の消化管からの吸収速度定数は、薬物の脂溶性と吸収速度定数との相関から推定される値よりも大きい。
3 食後に薬物を投与すると胃内容排出速度が上昇するため、薬物の最高血中濃度到達時間は早くなる。
4 脂溶性の高い薬物は、小腸吸収過程において非撹拌水層の影響を受けやすい。
5 消化管粘膜表面のpHは消化管管腔内のpHよりも低いため、弱酸性薬物の消化管からの吸収量は、管腔内pH から予想される量よりも少ない。
108回薬剤師国家試験 問168 解答解説
◆ 1について
1 × 小腸下部から吸収された薬物は門脈を介さずに全身循環へ移行する。
小腸から吸収された薬物は、門脈を経て肝臓に入るため、
肝初回通過効果を受ける。
◆ 2について
2 × P-糖タンパク質に認識される薬物の消化管からの吸収速度定数は、薬物の脂溶性と吸収速度定数との相関から推定される値よりも大きい。
P-糖タンパク質は一次性能動輸送担体であり、
ATPの加水分解エネルギーを直接利用し、
濃度勾配に逆らい、細胞内の薬物を細胞外に排出する。
小腸上皮細胞では、P-糖タンパク質は小腸の管腔側となる刷子縁膜側に発現し、薬物を細胞内から小腸管腔に排出し、吸収を抑制している。
よって、P-糖タンパク質に認識される薬物の消化管からの吸収速度定数は、薬物の脂溶性と吸収速度定数との相関から推定される値よりも小さくなると考えられる。
◆ 3について
3 × 食後に薬物を投与すると胃内容排出速度が上昇するため、薬物の最高血中濃度到達時間は早くなる。
食事により、胃内容排出速度は低下する。
小腸で単純拡散により吸収される薬物の場合、食後に投与すると、
食事により胃内容排出速度が低下すると、吸収速度が低下するので、
最高血中濃度到達時間は遅くなり、最高血中濃度は低下する。
一方、小腸のトランスポーターを介して吸収される薬物の場合、食後に投与すると、
食事により胃内容排出速度が低下すると、薬物が少しずつ小腸に輸送されることで、
トランスポーターが飽和しにくくなるので、吸収量が増大する。
関連問題
・胃内容排出速度の低下により吸収量が増大する薬物 103回問41
◆ 4について
4 ○ 脂溶性の高い薬物は、小腸吸収過程において非撹拌水層の影響を受けやすい。
薬物が小腸から吸収される際、
小腸粘膜近傍の非撹拌水層を拡散して細胞膜に到達する過程と、
膜を透過する過程を経る。
一般に、脂溶性の高い薬物は、非撹拌水層の拡散速度は遅く、膜透過速度は速い。
よって、脂溶性の高い薬物の小腸からの吸収速度は、非撹拌水層の拡散速度に依存する。
関連問題
親水性薬物の吸収速度と非撹拌水層 103回問167の4
◆ 5について
5 × 消化管粘膜表面のpHは消化管管腔内のpHよりも低いため、弱酸性薬物の消化管からの吸収量は、管腔内pHから予想される量よりも少ない。
薬物が単純拡散により吸収され、pH分配仮説に従うとすると、
吸収部位のpHと吸収量の関係は以下の通り。
・弱酸性薬物
pHが低いほど、分子形分率が大きくなるので、吸収量は増大し、
pHが高いほど、分子形分率が小さくなるので、吸収量は減少する。
消化管粘膜表面のpHは消化管管腔内のpHよりも低いため、
弱酸性薬物の消化管からの吸収量は、
管腔内pHから予想される量よりも多くなると考えられる。
関連問題
・小腸粘膜表面のpHと薬物の吸収性 95回問151の4
・弱塩基性薬物の単純拡散による吸収とpH 98回問166の2
★ 他サイトさんの解説リンク
108回問168(e-RECさん)