シクロホスファミドのLC/MS 100回薬剤師国家試験問205
100回薬剤師国家試験 問205
調製作業後、安全キャビネット周辺のシクロホスファミドの飛散状況を液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)を用いて確認することになった。
以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 本薬物は難揮発性物質であるので、トリメチルシリル(TMS)化などの誘導体化が必要である。
2 本薬物は、大気圧イオン化法であるエレクトロスプレーイオン化(ESI)法によりイオン化される。
3 塩素の安定同位体は、整数原子量が35と37のものがほぼ3:1で存在するため、本薬物の分子イオンピークをMとすると、質量数がM、M+2、M+4の3本のピークは、強度比約1:2:1で観測される。
4 本薬物の定量に重水素標識体を内標準物質として用いる際には、その放射性があるため、使用場所が制限される。
5 本薬物のような低分子の測定では、タンデム型質量分析計を用い、プリカーサーイオン(前駆イオン)とそこから生成するプロダクトイオンを選択することで、薬物に対する選択性が向上する。
100回薬剤師国家試験 問205 解答解説
◆ 1について
1 × 本薬物は難揮発性物質であるので、トリメチルシリル(TMS)化などの誘導体化が必要である。
シクロフォスファミド(エンドキサン)はナイトロジェンマスタード類であり、
常温で気化する揮発性物質である。
トリメチルシリル(TMS)化は、難揮発性物質を揮発性物質にする誘導体化であるが、
ガスクロマトグラフィーで用いられるものであり、設問の液体クロマトグラフィーでは用いられない。
★ シクロホスファミド(エンドキサン)の薬理作用
シクロホスファミド(エンドキサン)はナイトロジェンマスタード系のアルキル化薬である。
主にCYP2B6で代謝されて活性化されるプロドラッグであり、DNA鎖間で架橋を形成することにより、DNAの複製やDNAからmRNAへの転写を停止することにより、細胞の増殖を抑制する。
シクロフォスファミド,イホスファミド,ベンダムスチンなどのナイトロジェンマスタード類は常温で気化するため、閉鎖系の調整器具を使用しなければならない。
◆ 2について
2 〇 本薬物は、大気圧イオン化法であるエレクトロスプレーイオン化(ESI)法によりイオン化される。
液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)のイオン化には、
大気圧下でイオン化する方法であるエレクトロスプレーイオン化(ESI)法や大気圧化学イオン化(APCI)法が用いられる。
ESI法については下記のリンク先を参照
ESI法の原理と特徴
◆ 3について
3 × 塩素の安定同位体は、整数原子量が35と37のものがほぼ3:1で存在するため、本薬物の分子イオンピークをMとすると、質量数がM、M+2、M+4の3本のピークは、強度比約1:2:1で観測される。
→ 〇 塩素の安定同位体は、整数原子量が35と37のものがほぼ3:1で存在するため、本薬物の分子イオンピークをMとすると、質量数がM、M+2、M+4の3本のピークは、強度比約9:6:1で観測される。
詳細は下記のリンク先を参照
塩素を含むマススペクトルの同位体ピーク
◆ 4について
4 × 本薬物の定量に重水素標識体を内標準物質として用いる際には、その放射性があるため、使用場所が制限される。
重水素(2H)は放射性のない安定同位体である。
安定同位体標識化合物は内標準物質として用いられる。
安定同位体標識化合物に用いられる安定同位体として、2H,13C ,15N,18Oなどがある。
◆ 5について
5 〇 本薬物のような低分子の測定では、タンデム型質量分析計を用い、プリカーサーイオン(前駆イオン)とそこから生成するプロダクトイオンを選択することで、薬物に対する選択性が向上する。
タンデム型質量分析計(MS/MS)については
下記のリンク先を参照
タンデムマス法 104回問139
★他サイトさんの解説へのリンク
第100回問204,205(e-RECさん)