単純拡散により生体膜を透過する薬物 89回薬剤師国家試験問149
89回薬剤師国家試験 問149
単純拡散により生体膜を透過する薬物に関する記述のうち、正しいものはどれか。
a 血液脳関門は脂質膜としての挙動を示すため、血液中で非イオン形で、しかも脂溶性が高い薬物ほど脳へ移行しやすい。
b 非イオン形分子の脂溶性が同じ程度であれば、酸性薬物ではpKaが小さいほど、また塩基性薬物ではpKaが大きいほど、それぞれ小腸から吸収されやすい。
c 濃度勾配に従って透過するので、その透過はミカエリスーメンテン(Michaelis-Menten)の式により表すことができる。
d 尿細管での受動的再吸収はpH分配仮説に従うので、尿がアルカリ性になれば、塩基性薬物の腎排泄速度は減少する。
89回薬剤師国家試験 問149 解答解説
◆ aについて
a 〇 血液脳関門は脂質膜としての挙動を示すため、血液中で非イオン形で、しかも脂溶性が高い薬物ほど脳へ移行しやすい。
物質の単純拡散における細胞膜透過について、pH分配仮説という理論がある。
この仮説は、脂溶性の高い分子形(非イオン形)は細胞膜を透過し、水溶性の高いイオン形は細胞膜を透過しないとし、物質のプロトンの解離・保持による脂溶性の変化が膜透過に大きな影響を与えるという考えである。
血液脳関門は脂質膜としての挙動を示すため、物質の単純拡散による膜透過がpH分配仮説に従うとすると、血液中で(分子形)非イオン形で、しかも脂溶性が高い薬物ほど脳へ移行しやすいと考えられる。
◆ bについて
b × 非イオン形分子の脂溶性が同じ程度であれば、酸性薬物ではpKaが小さいほど、また塩基性薬物ではpKaが大きいほど、それぞれ小腸から吸収されやすい。
→ 〇 非イオン形分子の脂溶性が同じ程度であれば、酸性薬物ではpKaが大きいほど、また塩基性薬物ではpKaが小さいほど、それぞれ小腸から吸収されやすい。
単純拡散による生体膜透過はpH分配仮説に従うとすると、
物質のpKaと透過性の関係は以下の通り。
酸性薬物ではpKaが大きいほど、分子形分率が大きくなるので、
単純拡散により透過しやすいと考えられる。
塩基性薬物ではpKaが小さいほど、分子形分率が大きくなるので、
単純拡散により透過しやすいと考えられる。
詳細は下記のリンク先を参照
単純拡散による透過性とpKaの関係 89回問149b
◆ cについて
c × 濃度勾配に従って透過するので、その透過はミカエリスーメンテン(Michaelis-Menten)の式により表すことができる。
単純拡散では、薬物はトランスポーターを介さず、濃度勾配または電気化学ポテンシャル差に従って透過し、
その透過速度は、Fickの拡散速度式により表すことができる。
なお、ミカエリスーメンテン(Michaelis-Menten)の式、トランスポーターを介した輸送の輸送速度を表す式である。
関連問題
・単純拡散の透過速度とFickの法則 94回問151の1,2
・トランスポーターを介した輸送の速度と基質濃度 103回問166の2
◆ dについて
d 〇 尿細管での受動的再吸収はpH分配仮説に従うので、尿がアルカリ性になれば、塩基性薬物の腎排泄速度は減少する。
尿細管での受動的再吸収は、単純拡散により起こり、pH分配仮説に従うとすると、
pHと再吸収量の関係は以下の通り。
・酸性薬物
pHが低いほど、分子形分率が大きくなるので、再吸収は増大し、腎排泄速度は減少する。
pHが高いほど、分子形分率が小さくなるので、再吸収は減少し、腎排泄速度は増大する。
・塩基性薬物
pHが低いほど、分子形分率が小さくなるので、再吸収は減少し、腎排泄速度は増大する。
pHが高いほど、分子形分率が大きくなるので、再吸収は増大し、腎排泄速度は減少する。
以下、詳細
★ 弱酸性薬物の場合
弱酸性薬物は、水溶液中で以下の平衡状態にある。
上式より、弱酸性薬物は、
溶液のpHが低いほど分子形分率は大きくなり、
溶液のpHが高いほど分子形分率は小さくなる。
よって、弱酸性薬物の尿細管での受動的再吸収について、
pHが低いほど、分子形分率が大きくなるので、再吸収は増大し、
pHが高いほど、分子形分率が小さくなるので、再吸収は減少する。
★ 弱塩基性薬物の場合
弱塩基性薬物は、水溶液中で以下の平衡状態にある。
上式より、弱塩基性薬物は、
溶液のpHが低いほど分子形分率は小さくなり、
溶液のpHが高いほど分子形分率は大きくなる。
よって、弱塩基性薬物の尿細管での受動的再吸収について、
pHが低いほど、分子形分率が小さくなるので、再吸収は減少し、
pHが高いほど、分子形分率が大きくなるので、再吸収は増大する。