トランスポーターを介した薬物輸送に関する記述 106回薬剤師国家試験問170
106回薬剤師国家試験 問170
トランスポーターを介した薬物輸送に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 ペプチドトランスポーターPEPT1によるバラシクロビル輸送の駆動力は、プロトン濃度勾配である。
2 有機アニオントランスポーターOAT1によるメトトレキサート輸送は、ATPの加水分解エネルギーを駆動力として直接利用する。
3 シクロスポリンは有機アニオントランスポーターOATP1B1を阻害するため、プラバスタチンの肝臓への移行を抑制し、血中濃度を上昇させる。
4 カルビドパは血液脳関門に発現する中性アミノ酸トランスポーターLAT1を介して、脳へ移行する。
5 シスプラチンは有機カチオントランスポーターOCT2の基質であるため、ジゴキシンの尿細管分泌を競合的に阻害する。
106回薬剤師国家試験 問170 解答解説
◆ 1について
1 〇 ペプチドトランスポーターPEPT1によるバラシクロビル輸送の駆動力は、プロトン濃度勾配である。
ペプチドトランスポーターPEPT1は、H+/ペプチド共輸送体である。
PEPT1は、一次性能動輸送によって生じたプロトンの濃度勾配を駆動力とし、プロトンとジ・トリペプチドを共輸送するので、二次性能動輸送担体に分類される。
PEPT1はオリゴペプチドの他、β-ラムタム系抗生物質,アンギオテンシン変換酵素阻害薬,バラシクロビル,バルガンシクロビルなど構造がオリゴペプチドに類似した薬物の吸収にも関与すると考えられている。
二次性能動輸送は、ATPの加水分解エネルギーを直接利用する一次性能動輸送によって生じたイオンの勾配を駆動力とする。
よって、二次性能動輸送はATPの加水分解エネルギーを間接的に利用するともいえる。
◆ 2について
2 × 有機アニオントランスポーターOAT1によるメトトレキサート輸送は、ATPの加水分解エネルギーを駆動力として直接利用する。
→ 〇 有機アニオントランスポーターOAT1によるメトトレキサート輸送は、ATPの加水分解エネルギーを駆動力として間接的に利用する。
有機アニオントランスポーターOAT1は、腎臓の近位尿細管上皮細胞の血管側に存在し、ジカルボン酸を細胞外に出し、有機アニオン物質を細胞内に取り込む交換輸送を行う。
OAT1は、一次性能動輸送によって生じたジカルボン酸の濃度勾配を駆動力とし、ジカルボン酸と有機アニオン物質を交換輸送する二次性能動輸送を行うので、駆動力としてATPの加水分解エネルギーを間接的に利用すると考えられる。
◆ 3について
3 〇 シクロスポリンは有機アニオントランスポーターOATP1B1を阻害するため、プラバスタチンの肝臓への移行を抑制し、血中濃度を上昇させる。
有機アニオントランスポーターOATP1B1は、肝実質細胞の血管側の細胞膜に存在し、血液中の有機アニオン性物質の細胞内への取り込みに関与する。
スタチン系薬物は有機アニオン性薬物であるため、OATP1B1を介して血液中から肝実質細胞内へ取り込まれるが、シクロスポリンによりOATP1B1が阻害されると、スタチン系薬物の血中濃度が上昇する。
スタチン系薬物の中でも、ロスバスタチン(クレストール)とピタバスタチン(リバロ)は、シクロスポリン(ネオーラル,サンディミュン)と併用禁忌となっている。
◆ 4について
4 × カルビドパは血液脳関門に発現する中性アミノ酸トランスポーターLAT1を介して、脳へ移行する。
中性アミノ酸トランスポーターLAT1を介して、脳内へ移行するのは、レボドパである。
カルビドパは、脳内へは移行せず、末梢において芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼを阻害する薬である。
レボドパとカルビドパを併用することで、末梢でレボドパが脱炭酸されてドパミンに変換されるのを抑制し、脳内に移行するレボドパの量を増加させることができる。
◆ 5について
5 シスプラチンは有機カチオントランスポーターOCT2の基質であるため、ジゴキシンの尿細管分泌を競合的に阻害する。
有機カチオントランスポーターOCT2は、腎臓の近位尿細管上皮細胞の血管側に存在し、促進拡散により血液中の有機カチオン物質を細胞内に取り込むトランスポーターである。
シスプラチンはOCT2の基質である。
ジゴキシンは、P糖タンパク質の基質であるが、OCT2の基質ではないため、シスプラチンにより尿細管分泌が競合的に阻害されることはない。
★ 他サイトさんの解説リンク
106回問170(e-RECさん)