SN2の反応性(速度)と立体障害・置換基の電子効果 104回薬剤師国家試験問104

第104回薬剤師国家試験 問104
以下に示す反応において、反応が最も速く進行するR−Br はどれか。下記の1から5より1つ選びなさい。

 

SN2の反応性(速度)と立体障害・置換基の電子効果 104回問104

 

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第104回薬剤師国家試験 問104 解答解説

 

SN2の反応性(速度)と立体障害・置換基の電子効果 104回問104

 

設問の反応は下記のように進行すると考えられる。

 

◆ (1)の反応:塩基によるα水素引き抜きによるエノラートイオンの生成
(A)の物質とナトリウムエトキシド(CH3CH2ONa)の反応では、強塩基であるエトキシドイオン(CH3CH2O:−)により(A)のα水素が引き抜かれ、エノラートイオンが生成する。下記の図において、(A)にはaとbという2つのα水素があるが、この時に引き抜かれるα水素は、2つのカルボニルに挟まれた炭素のα水素であるbの方である。その理由は、2つのカルボニルに挟まれた炭素のα水素が引き抜かれて生成するエノラートイオンは、π電子が非局在化する範囲がより広いので相対的に安定性が高いためである。

 

SN2の反応性(速度)と立体障害・置換基の電子効果 104回問104

 

◆ (2)の反応:ハロゲン化物に対してエノラートイオンが求核攻撃するSN2反応
ハロゲン(などの電気陰性度が大きい原子)が結合したsp3炭素は、ハロゲンが共有電子を引っ張ることから大きく正に分極し、Cδ+となっている。このような化合物はSN2反応(2分子求核置換反応)の基質となる。
SN2反応では、基質のCδ+に対して求核試薬がハロゲン(脱離基)の無い方向から背面攻撃を行い、三方両錘型の遷移状態を経て、ハロゲン(脱離基)が陰イオンとなって脱離する。結果、ハロゲン(脱離基)と求核試薬が置き換わったものが生成する。

 

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★ SN2反応の進行と基質の構造の関係:
SN2反応の進行と基質の構造について、ハロゲン−sp3炭素のCδ+のアルキル置換基の数が少ないほど、または、置換基が立体的に小さい基質ほどSN2反応は進行しやすい。

 

ハロゲン−sp3炭素のCδ+において、基質の反応中心炭素のアルキル置換基の数が多いほど、Cδ+周りが物理的に混雑して求核剤がアクセスしにくくなり、さらに、アルキル置換基の電子供与性電子効果でCδ+の正電荷が弱まることで求核剤の負電荷との引き合いが弱くなり、結果、SN2が起こりにくくなる。また、基質の反応中心炭素がアルキル置換基で混みあうと、三方両錘型の遷移状態のエネルギーが構造的混みあいによって高くなり、活性化エネルギーが高くなることでSN2反応が起こりにくくなる。
よって、ハロゲン−sp3炭素のCδ+のアルキル置換基の数が少ない、または、置換基が立体的に小さい基質ほどSN2反応は進行しやすい。
第3級ハロゲン化アルキルでは、SN2反応はほとんど起こらない。

 

・基質とSN2反応の活性化エネルギー・反応速度の関係

 

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◆ 4の化合物について

 

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第3級のハロゲン化物ではSN2反応はほとんど進行しない。よって、4を基質としたSN2反応はほとんど進行しない。

 

★ SN2反応は、反応中心炭素の置換基の立体的なサイズが小さいほど進行しやすく、置換基の立体的なサイズが大きいほど進行しにくい。

 

反応中心炭素(Cδ+)に立体的なサイズの大きい置換基が結合するとSN2反応の反応性が低下する。
その理由として次の@とAのことが挙げられる。

 

@ Cδ+に対する求核剤のアクセスにおいて、かさ高い置換基が物理的に求核剤の行く手を遮ることにより、求核剤がCδ+に接近しづらくなる。

 

A 置換基がかさ高い場合、立体障害により遷移状態のエネルギーが高いことから、活性化エネルギーが高くなる。

 

 

◆ 5の化合物について

 

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SN2反応の反応性に対する置換基の影響について、反応中心炭素の置換基の数だけでなく、置換基の種類も多大な影響を与える。
5は第1級ハロゲン化物で、反応中心炭素の置換基の数は少ないが、置換しているアルキル基が非常にかさ高いtert-ブチル基(ターシャリーブチル基)であるため、SN2反応は進行しにくい。
なお、5の構造のハロゲン化物をハロゲン化ネオペンチルとも呼ぶ。

 

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★ 置換基による電子求引性の電子効果により反応中心炭素の部分正電荷(δ+)が強められると、求核攻撃を受けやすくなり、SN2反応が進行しやすくなる。

 

・ 酸素原子などの電気陰性度の大きい原子の置換基はsp3炭素に対して誘起効果による電子求引性電子効果を与えるので、反応中心炭素の部分正電荷(δ+)が強まり、求核攻撃を受けやすくなるのでSN2反応が進行しやすくなる。

 

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・ ハロゲン化アリルやハロゲン化ベンジルは、ビニル基およびフェニル基が電子求引性電子効果を与えるので、反応中心炭素の部分正電荷(δ+)が強まり、求核攻撃を受けやすくなるのでSN2反応が進行しやすくなる。
第1級ハロゲン化ベンジルや第1級ハロゲン化アリルのSN2の反応性は、ハロメタン(H3C−X)よりも高いことが知られている。

 

SN2の反応性(速度)と立体障害・置換基の電子効果 104回問104

 

また、ハロゲン化アリルやハロゲン化ベンジルでSN2が進行しやすい理由として、
SN2の三方両錘型の遷移状態において、ベンジル位やアリル位のp軌道が置換基の二重結合を形成する炭素のp軌道と重なるため、遷移状態が安定化するためとの説もある。

 

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◆ 3の化合物について

 

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3は第1級ハロゲン化ベンジルで、反応中心炭素の置換基の数が少ないことに加え、電子求引性の電子効果を与えるフェニル基が結合しているので反応中心炭素のδ+が強まっているため、求核攻撃が起こりやすく、SN2反応の反応性は比較的高いと考えられる。
 また、3のようなハロゲン化ベンジルはSN1反応が進行しやすい。SN1反応は基質から脱離基が自発的に外れてカルボカチオンを生成する段階が律速段階のため、安定性の高いカルボカチオン中間体生成する基質で進行しやすい。ハロゲン化ベンジルからハロゲンが脱離して生成するベンジルカチオンは安定性の高いカルボカチオンである。
よって、ハロゲン化ベンジルである3の化合物はSN1反応も起こりやすい。

 

★ ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)では求核置換反応が起こりにくい。

 

ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)のX−C結合はX−sp2炭素の結合である。sp2炭素はsp3炭素に比べて電気陰性度が大きいので、X−sp2炭素の分極はX−sp3炭素よりも弱い。また、X−sp2炭素では、ハロゲンの電子供与性共鳴効果が発現し、X−sp2炭素の分極を弱める。
これらのことから、X−sp2炭素のCδ+は弱いため、求核試薬との反応は起こりにくい。
よって、ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)では求核置換反応が起こりにくい。

 

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◆ 選択肢1および2について
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1はハロゲン化アリールで、2はハロゲン化ビニルである。
これらのようにX−C結合がX−sp2炭素であるハロゲン化物では求核置換反応は起こりにくい。

 

以上より、
設問の反応は3のハロゲン化物(第1級ハロゲン化ベンジル)で最も速く進行すると考えられる。

 

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