ハロゲン化シクロヘキサンのE2反応 アンチペリプラナー 96回薬剤師国家試験問10b
第96回薬剤師国家試験 問10b
下記の化合物Xの合成法として、A法とB法のどちらが適切か。なお、キラル中心が存在する場合はラセミ体を使用している。
第96回薬剤師国家試験 問10b 解答解説
第2級、第3級のハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物に強塩基を反応させると、
ハロゲン−sp3炭素に隣接する炭素に結合するHが塩基によってH+として引き抜かれると同時にハロゲンが脱離し、C=Cのアルケンが生成する。この脱離反応をE2反応という。第1級ハロアルカンでも、基質がアルキル置換基で立体的に込み合う場合や、塩基に(CH3)3CO−のような立体的に大きい塩基を用いた場合は、E2反応が進行しやすくなる。
本問のA法およびB法は、シクロヘキサン誘導体の第2級ハロゲン化物を基質とし、立体的に大きい強塩基である(CH3)3CO−を反応させているが、これにより二分子脱離反応(E2反応)が進行すると考えられる。
★ E2反応は、脱離候補のHとXがアンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
アンチペリプラナー形とは、隣接する2つの炭素(C−C)に結合する2つの原子の立体配座について、同一平面にあって、かつ、ねじれ形をとることを指す。
ハロゲン化合物のE2反応は、脱離するHとハロゲン(X)がアンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
★ シクロヘキサン誘導体でのE2は脱離するHとハロゲン(X)がトランスジアキシアル位の時に進行する。
シクロヘキサン誘導体におけるHとハロゲン(X)のアンチペリプラナー形とは、HとXがトランスジアキシアル位にある立体配座を指す。よって、シクロヘキサン誘導体のハロゲン化物のE2は、脱離候補のHとXがトランスジアキシアル位にある立体配座で進行する。
★ 脱離反応では可能な限りC=Cのアルキル置換基の数が多いアルケンが主生成物となる(セイチェフ則,ザイチェフ則)。
セイチェフ則の詳細は下記のリンク先を参照
脱離反応のザイチェフ則(セイチェフ則) 89回問9bd
◆ A法について
シクロヘキサン誘導体のハロゲン化物でE2反応が起こるならば、脱離候補のHとXがトランスジアキシアル位の立体配座をとる。A法の基質でClがアキシアル位となる立体配座は下記のように描かれる。
上記の立体配座では、E2反応が進行した場合に脱離するHの候補は1つしかない。
この立体配座でE2反応が起こった場合、下記のようになる。
したがって、A法の主生成物はXである。
◆ B法について
B法の基質でClがアキシアル位となる立体配座は下記のように描かれる。
上記の立体配座では、E2反応が進行した場合に脱離するHの候補はHxとHyの2つがある。
Hxが塩基によって引き抜かれてE2反応が起こった場合、下記のように二置換アルケンであるXが生成する。
Hyが塩基によって引き抜かれてE2反応が起こった場合、下記のように三置換アルケンであるYが生成する。
脱離反応では可能な限りC=Cのアルキル置換基の数が多いアルケンが主生成物となる(セイチェフ則,ザイチェフ則)。したがって、B法ではHyとClが脱離するE2反応が進行し、三置換アルケンであるYが主生成物となる。