脱離反応(E1,E2)のザイチェフ則(セイチェフ則) 89回薬剤師国家試験問9bd
89回薬剤師国家試験 問9bd
脱離反応に関する下記の記述の正誤を判定してみよう。
b 2-bromobutaneをナトリウムエトキシドで処理すると、Saytzev則に従った2-buteneが主生成物として得られる。
d cis-1-chloro-2-methylcyclohexaneをナトリウムエトキシドで処理すると、Saytzev則に従った3-methylcyclohexeneが主生成物として得られる。
89回薬剤師国家試験 問9bd 解答解説
◆ bについて
b 〇 2-bromobutaneをナトリウムエトキシドで処理すると、
Saytzev則に従った2-buteneが主生成物として得られる。
★ 第2級、第3級ハロアルカンに強塩基を用いるとE2反応が優先して進行する。
第2級、第3級のハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物に強塩基を反応させると、ハロゲン−sp3炭素に隣接する炭素に結合する水素が、塩基によってプロトンとして引き抜かれると同時に、ハロゲンが脱離し、アルケンが生成する。この脱離反応をE2反応(二分子脱離反応)という。E2反応は、脱離する水素とハロゲンがアンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
第1級ハロアルカンではSN2反応が競合しやすいが、基質がアルキル置換基で立体的に込み合う場合や、立体的に大きい塩基を用いた場合は、E2反応が進行しやすくなる。
E2脱離反応は下記のように進行する。
★ E2反応のような脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素のアルキル置換基の数が多いものが主生成物となる。これをセイチェフ則またはザイチェフ則と呼ぶ。
脱離反応の生成物がセイチェフ則に従う理由として、アルケンは、アルキル置換基の数が多いほど、熱力学的な安定性が高いことが挙げられる
アルケンの安定性については下記のリンク先を参照
アルケンの安定性
本問の反応について、
2-bromobutaneに強塩基であるエトキシドイオン(CH3CH2O−)を反応させると、E2反応が進行する。
エトキシドイオンによって引き抜かれる水素の候補として、下記の図のHxとHyが挙げられる。
Hxが引き抜かれた場合は二置換アルケンの2-butenが生成し、Hyが引き抜かれた場合は一置換アルケンの1-butenが生成する。
脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素の置換基の数が多いものが主生成物となる(セイチェフ則またはザイチェフ則)。
よって、2-bromobutanを基質とするE2反応の主生成物は、二置換アルケンの2-buteneである。
◆ dについて
d × cis-1-chloro-2-methylcyclohexaneをナトリウムエトキシドで処理すると、Saytzev則に従った3-methylcyclohexeneが主生成物として得られる。
→ 〇 cis-1-chloro-2-methylcyclohexaneをナトリウムエトキシドで処理すると、Saytzev則に従った1-methylcyclohexeneが主生成物として得られる。
cis-1-chloro-2-methylcyclohexaneをナトリウムエトキシドで処理するとE2反応が進行する。
★ E2反応は、脱離する水素と脱離基について、互いにトランスの位置となるアンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
アンチペリプラナー形とは、隣接する2つの炭素に結合する2つの原子の立体配座について、同一平面にあって、かつ、ねじれ形をとることを指す。
ハロゲン化合物のE2反応は、脱離する水素とハロゲン(X)について、アンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
★ シクロヘキサン誘導体でのE2反応は、脱離する水素と脱離基(X)がトランスジアキシアル位の時に進行する。
シクロヘキサン誘導体における水素と脱離基(X)のアンチペリプラナー形とは、水素とXがトランスジアキシアル位にある立体配座を指す。よって、ハロゲン化シクロヘキサンのE2反応は、脱離する水素とXがトランスジアキシアル位にある立体配座で進行する。
cis-1-chloro-2-methylcyclohexaneは、いす型配座として下記のAとBの立体配座をとり得る。
E2反応が起こる場合、脱離する水素とClがトランスジアキシアル位にあるBの立体配座で進行する。
エトキシドイオンによって引き抜かれる水素の候補として、下記の図のHxとHyが挙げられる。
Hxが引き抜かれた場合は三置換アルケンの1-methylcyclohexeneが生成し、
Hyが引き抜かれた場合は二置換アルケンの3-methylcyclohexeneが生成する。
脱離反応では、通常、生成するアルケンについてC=Cの置換基の数が多いものが主生成物となる(セイチェフ則またはザイチェフ則)。よって、cis-1-chloro-2-methylcyclohexaneを基質とするE2反応の主生成物は、三置換アルケンの1-methylcyclohexeneである。
E2反応は、主生成物がセイチェフ則に従うことよりも、
脱離する水素と脱離基がアンチペリプラナー形の配座で進行することの方が優先である。
そのため、E2反応の主生成物が、セイチェフ則に従わないことがある。