(S)-2-ブロモペンタンのE2反応 109回薬剤師国家試験問102
109回薬剤師国家試験 問102
エタノール中、ナトリウムエトキシドによる(S)-2-ブロモペンタンのE2反応では、3つのアルケンA〜Cが生成する。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。なお、Newman 投影式T〜Vは(S)-2-ブロモペンタンの配座異性体を表している。
1 カルボカチオン中間体を経由する反応である。
2 AとBをあわせた収率は、Cの収率より大きい。
3 臭素原子を塩素原子に置換した出発物質を用いると、脱離反応が遅くなる。
4 ナトリウムエトキシドの濃度を変えても、反応速度は変化しない。
5 配座異性体T〜Vのうち、VからAが生成する。
109回薬剤師国家試験 問102 解答解説
◆ 1,4について
1 × カルボカチオン中間体を経由する反応である。
→ 〇 E2反応は、一段階の反応であり、カルボカチオン中間体を経由しない。
4 × ナトリウムエトキシドの濃度を変えても、反応速度は変化しない。
→ 〇 E2反応の速度は、塩基であるナトリウムエトキシドの濃度に比例する。
本問の反応は、ハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物を基質としたE2反応(二分子脱離反応)という脱離反応である。
第2級、第3級のハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物に、ナトリウムエトキシドなどの強塩基を反応させると、ハロゲン−sp3炭素に隣接する炭素に結合する水素が、塩基によってプロトンとして引き抜かれると同時に、ハロゲンが脱離し、アルケンが生成する。この脱離反応をE2反応(二分子脱離反応)という。E2反応は、一段階の反応である。
この反応が二分子脱離反応(E2反応)と呼ばれる理由は、
律速段階で基質と塩基の二分子が同時に関わるからである。
よって、E2反応の反応速度は、
基質の濃度と塩基の濃度の両方に比例し、下記の二次反応速度式で記述される。
E2反応の反応速度 = k ×[基質]×[塩基]
(k:反応速度定数)
なお、カルボカチオン中間体を経由する脱離反応は、E1反応である。
E1反応の詳細については下記のリンク先を参照
E1反応について
◆ 2について
2 〇 AとBをあわせた収率は、Cの収率より大きい。
E2反応のような脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素のアルキル置換基の数が多いものが主生成物となる。これをセイチェフ則またはザイチェフ則と呼ぶ。
脱離反応の生成物がセイチェフ則に従う理由として、アルケンは、アルキル置換基の数が多いほど、熱力学的な安定性が高いことが挙げられる
本問のE2反応では、以下に示すように、二置換アルケンであるAまたはBの方が、一置換アルケンであるCよりも安定性が高いため、AまたはBが主生成物となる。
◆ 3について
3 ○ 臭素原子を塩素原子に置換した出発物質を用いると、脱離反応が遅くなる。
脱離反応では、基質から脱離基がアニオン(陰イオン)や中性分子となって外れる。
基質の脱離基が外れやすいほど、基質の脱離反応の反応性は高い。
有機ハロゲン化合物では、ハロゲンが脱離基であり、ハロゲンアニオンとなって外れる。
ハロゲンアニオンの負電荷の分散範囲が広く、安定性が高いほど、
基質からハロゲンがアニオンとなって脱離しやすい。
臭素アニオンと塩素アニオンでは、臭素アニオンの方が、負電荷の分散範囲が広く、安定性は高い。
よって、臭素の方が塩素よりも脱離基として外れやすい。
以上より、臭素原子を塩素原子に置換した出発物質を用いると、脱離反応が遅くなる。
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◆ 5について
5 × 配座異性体T〜Vのうち、VからAが生成する。
→ 〇 TからAが生成する。
E2反応は、脱離する水素と脱離基について、アンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
アンチペリプラナー形とは、以下に示すHとXのように、隣接する2つの炭素に結合する2つの原子の立体配座が、同一平面にあり、かつ、ねじれ形であることを指す。
E2反応は、基質から脱離する水素と脱離基(X)について、
アンチペリプラナー形の立体配座で進行し、その立体がアルケンになるまで保持される。
そのため、特定の配座異性体から、特定の立体のアルケンが生成することになる。
本問のE2反応では、以下の通り、
配座異性体TからAのアルケンが生成し、
配座異性体VからBのアルケンが生成する。
E2反応は、主生成物がセイチェフ則に従うことよりも、
脱離する水素と脱離基がアンチペリプラナー形の配座で進行することの方が優先である。
そのため、E2反応の主生成物が、セイチェフ則に従わないことがある。
関連問題
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