求核置換反応(SN1・SN2) 基質の構造と反応性(起こりやすさ) 83回薬剤師国家試験問7c
第83回薬剤師国家試験 問7c
一分子求核置換反応(SN1反応)及び二分子求核置換反応(SN2反応)に関する次の記述の正誤を判定してみよう。
c.ハロゲン化アルキルを、SN2反応の反応速度の速い順に並べると、ハロゲン化メチル、第一級ハロゲン化物、第二級ハロゲン化物、第三級ハロゲン化物の順になる。
第83回薬剤師国家試験 問7c 解答解説
c.〇 ハロゲン化アルキルを、SN2反応の反応速度の速い順に並べると、ハロゲン化メチル、第一級ハロゲン化物、第二級ハロゲン化物、第三級ハロゲン化物の順になる。
SN2反応の反応速度は、基質の反応中心炭素に対して求核剤がアクセスしやすいほど速い。
よって、SN2の反応速度は、基質の反応中心炭素のアルキル置換基の数が少ないほど速い、または、基質の反応中心炭素のアルキル置換基の立体的サイズが小さいほど速い。
★ SN2反応の進行と基質の構造の関係:
SN2反応の進行と基質の構造について、X−sp3炭素のアルキル置換基の数が少ないほどSN2反応は進行しやすい。
ハロゲン(などの電気陰性度が大きい原子)が結合したsp3炭素は、ハロゲンが共有電子を引っ張ることから大きく正に分極し、Cδ+となっている。このような化合物はSN2反応(2分子求核置換反応)の基質となる。
SN2反応では、基質のCδ+に対して求核試薬がハロゲン(脱離基)の無い方向から背面攻撃を行い、三方両錘型の遷移状態を経て、ハロゲン(脱離基)が陰イオンとなって脱離する。結果、ハロゲン(脱離基)と求核試薬が置き換わったものが生成する。SN2反応の進行の特徴として、基質に求核剤が付加すると同時に、脱離基が脱離するという中間体を経由しない一段階の反応であることが重要である。この反応が2分子求核置換反応(SN2)と呼ばれる理由は、律速段階で基質と求核剤の2分子が関わるからである。よって、SN2反応の反応速度は基質の濃度と求核剤の濃度の両方に比例し、下記の二次反応速度式で記述される。
SN2の反応速度=k×[基質]×[求核剤]
・基質とSN2反応の活性化エネルギー・反応速度の関係
★ SN1反応の進行と基質の構造の関係:
求核置換反応のSN1反応ではカルボカチオン中間体を生成する段階が律速段階なので、SN1は安定なカルボカチオンを生成する基質で起こりやすい。
SN1反応では、第一段階として基質から脱離基が陰イオンとなって外れてカルボカチオン中間体を生成する。第二段階として、カルボカチオンに対して求核剤が付加する。結果、脱離基と求核剤が置換したものが生成する。
SN1反応の2つの段階のうち、相対的に活性化エネルギーが高く、速度が遅いのは一段階目のカルボカチオン中間体を生成する段階である。よって、この過程がSN1の律速段階である。
この反応が1分子求核置換反応(SN1)と呼ばれる理由は、律速段階で基質の1分子だけが関わるからである。
よって、SN1反応の反応速度は基質の濃度のみに比例し、下記の一次反応速度式で記述される。
SN1の反応速度=k×[基質]
SN1反応の律速段階は、第一段階の脱離基が外れてカルボカチオン中間体を生成する過程である。カルボカチオンとして安定性の高い第3級カルボカチオンやアリルカチオン、ベンジルカチオンが生成する基質ならばSN1反応が起こる可能性はあるが、不安定なノーマル第1級カルボカチオンやメチルカチオンが生成する場合はSN1反応が起こる可能性は低い。
カルボカチオンの安定性の序列は下記の通りである。
SN1反応の律速段階は基質からハロゲンが脱離してカルボカチオンを生成する段階であることから、ハロゲン化アルキルのSN1反応の反応性(起こりやすさ)の序列は、ハロゲンが外れて生成するカルボカチオンの安定性の序列に従うので、下記のようになる。
カルボカチオンの安定性については下記のリンク先で解説
カルボカチオンの安定性について