E2脱の総合問題 反応機構・反応速度・ザイチェフ則等 101回薬剤師国家試験問102
101回薬剤師国家試験 問102
次のE2反応に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 カルボカチオン中間体を経由する。
2 脱離するHとBrとがシン(シンペリプラナー)の関係となる立体配座から進行する。
3 反応速度は、化合物Aの濃度及びエトキシドイオンの濃度の両者に比例する。
4 出発物質として化合物Aのエナンチオマーを用いると、化合物Bの幾何異性体が主生成物として得られる。
5 化合物Bは、Saytzeff(ザイツェフ、セイチェフ)則に従った生成物である。
101回薬剤師国家試験 問102 解答解説
◆ 1,3について
1 × E2反応は、カルボカチオン中間体を経由する。
→ 〇 E2反応は、一段階で済む反応であり、カルボカチオン中間体を経由しない。
3 〇 E2反応の反応速度は、化合物A(基質)の濃度及びエトキシドイオン(塩基)の濃度の両者に比例する。
第2級、第3級のハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物に、ナトリウムエトキシドなどの強塩基を反応させると、ハロゲン−sp3炭素に隣接する炭素に結合する水素が、塩基によってプロトンとして引き抜かれると同時に、ハロゲンが脱離し、アルケンが生成する。この脱離反応をE2反応(二分子脱離反応)という。E2反応は、一段階の反応である。
この反応が二分子脱離反応(E2反応)と呼ばれる理由は、律速段階で基質と塩基の二分子が同時に関わるからである。よって、E2反応の反応速度は、基質の濃度と塩基の濃度の両方に比例し、下記の二次反応速度式で記述される。
E2反応の反応速度 = k ×[基質]×[塩基]
(k:反応速度定数)
なお、脱離反応のうち、カルボカチオン中間体を経由するのは、E1反応である。
E1反応の詳細は下記のリンク先を参照
E1反応について
◆ 2について
2 × 脱離するHとBrとがシン(シンペリプラナー)の関係となる立体配座から進行する。
→ 〇 脱離するHとBrとがアンチペリプラナーの関係となる立体配座から進行する。
E2反応は、脱離する水素と脱離基(X)について、アンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
アンチペリプラナー形とは、以下に示すHとXのように、隣接する2つの炭素に結合する2つの原子の立体配座が、同一平面にあり、かつ、ねじれ形であることを指す。
E2反応は、脱離する水素と脱離基(X)について、アンチペリプラナー形の立体配座で進行し、
その立体がアルケンになるまで保持される。
そのため、特定の立体配座異性体から、特定の立体のアルケンが生成することになる。
◆ 4について
4 × 出発物質として化合物Aのエナンチオマーを用いると、化合物B((2Z)-3-methylpent-2-en)の幾何異性体が主生成物として得られる。
→ 〇 出発物質として化合物Aのエナンチオマーを用いると、化合物B((2Z)-3-methylpent-2-en)が主生成物として得られる。
E2反応は、脱離する水素と脱離基が、アンチペリプラナー形の関係となる立体配座で進行する。
その立体がアルケンになるまで保持されるので、特定の立体配座から特定の立体のアルケンが生成することになる。
化合物AおよびAのエナンチオマーのE2反応は、以下に示すように進行する。
以上より、出発物質として、
化合物Aを用いても、化合物Aのエナンチオマーを用いても、
主生成物は化合物B((2Z)-3-methylpent-2-en)である。
◆ 5について
5 〇 化合物Bは、Saytzeff(ザイツェフ、セイチェフ)則に従った生成物である。
★ E2反応のような脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素のアルキル置換基の数が多いものが主生成物となる。これをセイチェフ則またはザイチェフ則と呼ぶ。
脱離反応の生成物がセイチェフ則に従う理由として、アルケンは、アルキル置換基の数が多いほど、熱力学的な安定性が高いことが挙げられる
アルケンの安定性については下記のリンク先を参照
アルケンの安定性
化合物Aを基質とするE2反応において、
エトキシドイオンによって引き抜かれる水素の候補として、
下記の図のHbとHcが挙げられる。
化合物AのE2反応について、
Hbが引き抜かれた場合は三置換アルケンのBが生成し、
Hcが引き抜かれた場合は一置換アルケンのCが生成する。
よって、化合物Bは、Saytzeff(ザイツェフ、セイチェフ)則に従った生成物である。
・ハロゲン化アルキルに強塩基が反応して進行する反応 90回問12b
★他サイトさんの解説へのリンク
101回問102(e-RECさん)