シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

94回薬剤師国家試験 問9
シクロヘキサン誘導体A、B及びそのE2反応の生成物C、Dに関する記述のうち、正しいものはどれか。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

a AとBは、エナンチオマーの関係にある。

 

b Aの安定ないす形配座において、Cl基はアキシアルに配置する。

 

c Aをエタノール中で、ナトリウムエトキシドを用いてE2反応を行うと、主としてアルケンCが得られ、Dはほとんど得られない。

 

d エタノール中での、ナトリウムエトキシドによるE2反応速度を比較すると、A > Bとなる。

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94回薬剤師国家試験 問9 解答解説

 

◆ aについて

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

a × AとBは、エナンチオマーの関係にある。
→ 〇 AとBは、ジアステレオマーの関係にある。

 

b 〇 Aの安定ないす形配座において、Cl基はアキシアルに配置する。

 

詳細は下記のリンク先を参照
94回問9abの解説

 

 

◆ cについて

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

c × Aをエタノール中で、ナトリウムエトキシドを用いてE2反応を行うと、主としてアルケンCが得られ、Dはほとんど得られない。
→ 〇 Aをエタノール中で、ナトリウムエトキシドを用いてE2反応を行うと、主としてアルケンDが得られる。

 

本問の反応は、ハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物を基質としたE2反応(二分子脱離反応)という脱離反応である。
第2級、第3級のハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物に、ナトリウムエトキシドなどの強塩基を反応させると、ハロゲン−sp3炭素に隣接する炭素に結合する水素が、塩基によってプロトンとして引き抜かれると同時に、ハロゲンが脱離し、アルケンが生成する。この脱離反応をE2反応(二分子脱離反応)という。E2反応は、一段階の反応である。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

 

★ E2反応は、脱離する水素と脱離基について、互いにトランスの位置となるアンチペリプラナー形の立体配座で進行する。

 

 アンチペリプラナー形とは、隣接する2つの炭素に結合する2つの原子の立体配座について、同一平面にあって、かつ、ねじれ形をとることを指す。
ハロゲン化合物のE2反応は、脱離する水素とハロゲン(X)について、アンチペリプラナー形の立体配座で進行する。

 

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

★ シクロヘキサン誘導体でのE2反応は、脱離する水素と脱離基(X)がトランスジアキシアル位の時に進行する。
シクロヘキサン誘導体における水素と脱離基(X)のアンチペリプラナー形とは、水素とXがトランスジアキシアル位にある立体配座を指す。よって、ハロゲン化シクロヘキサンのE2反応は、脱離する水素とXがトランスジアキシアル位にある立体配座で進行する。

 

本問のAを基質としてE2反応が起こる場合、脱離する水素とClがトランスジアキシアル位にある立体配座をとらなければならない。その立体配座は下記の通りである。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

 

★ E2反応のような脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素のアルキル置換基の数が多いものが主生成物となる。これをセイチェフ則またはザイチェフ則と呼ぶ。
脱離反応の生成物がセイチェフ則に従う理由として、アルケンは、アルキル置換基の数が多いほど、熱力学的な安定性が高いことが挙げられる

 

アルケンの安定性については下記のリンク先を参照
アルケンの安定性

 

 

Aを基質としてE2反応が進む場合、塩基によって引き抜かれる水素の候補として、下記の図のHcとHdが挙げられる。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

Hcが塩基に引き抜かれてE2反応が進行した場合、
二置換アルケンのCが生成する。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

 

Hdが塩基に引き抜かれてE2反応が進行した場合、
三置換アルケンのDが生成する。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素の置換基の数が多いものが主生成物となる(セイチェフ則またはザイチェフ則)。
よって、Aを基質とするE2反応の主生成物は、三置換アルケンのDである。

 

なお、E2反応は、主生成物がセイチェフ則に従うことよりも、
脱離する水素と脱離基がアンチペリプラナー形の配座で進行することの方が優先である。
そのため、E2反応の主生成物が、セイチェフ則に従わないことがある。

 

 

◆ dについて
d 〇 エタノール中での、ナトリウムエトキシドによるE2反応速度を比較すると、A > Bとなる。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

化合物AおよびBを基質とするE2反応が進む条件として、脱離する水素とClがトランスジアキシアル位となる立体配座をとることが挙げられる。水素とClがトランスジアキシアル位となる立体配座が、他の立体配座よりも相対的に安定性が高いならば、E2反応は起こりやすい。

 

 化合物Aは下記のTとUのいす型の立体配座を取り得るが、イソプロピル基とメチル基がエクアトリアル位であるUの立体配座が、相対的に安定な立体配座であり、平衡はUに偏る。
Uの立体配座は、脱離する水素とClがトランスジアキシアル位となる配座であり、E2反応が起こる時の立体配座である。
よって、化合物Aは、E2反応が起こりやすい。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

 

 

 化合物Bは下記のVとWのいす型の立体配座を取り得るが、イソプロピル基とメチル基がエクアトリアル位であるWの立体配座が、相対的に安定な立体配座であり、平衡はWに偏る。
しかし、Wの立体配座は、脱離する水素とClがトランスジアキシアル位ではない配座であり、E2反応が起こる時の立体配座ではない。E2反応が起こる立体配座は、安定性の低いVの立体配座である。
よって、化合物Bは、E2反応が起こりにくい。

 

シクロヘキサンのE2脱離 反応性(速度)と立体配座の安定性の関係 94回薬剤師国家試験問9

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