SN1・SN2の反応性(起こりやすさ)と基質の立体構造 93回薬剤師国家試験問8de
第93回薬剤師国家試験 問8de
次のハロゲン化合物の反応に関する記述d,eの正誤を判定してみよう。
d 化合物Cは、ハロゲンが結合した炭素上でSN2反応を起こすことは難しい。
e 化合物Dへの求核置換反応は、化合物Eの場合よりも容易に進行する。
第93回薬剤師国家試験 問8de 解答解説
◆ dについて
d 〇 化合物Cは、ハロゲンが結合した炭素上でSN2反応を起こすことは難しい。
化合物Cはベンゼン環炭素にハロゲンが置換した化合物である。これをハロゲン化アリールまたはハロベンゼンという。このように、ハロゲン(X)と炭素の結合がX−sp2炭素結合であるハロゲン化物では求核置換反応が起こりにくい。
★ ハロゲン化ビニル(CH2=CH−X)とハロゲン化アリール(Ar−X)では求核置換反応が起こりにくい。
詳細は下記のリンク先を参照
ハロゲン化アリールは求核置換反応で不活性 83回問7d
◆ eについて
e 〇 化合物Dへの求核置換反応は、化合物Eの場合よりも容易に進行する。
化合物Dは第1級ハロゲン化ベンジルであり、SN1反応とSN2反応の両方で反応性が高い。
SN1とSN2の基質と反応性の関係については
下記のリンク先を参照
SN1・SN2の基質の構造と反応性 83回問7c
☆ 化合物DのSN1の進行の可否
Dの化合物では、臭素が自発的に脱離することによりベンジルカチオンを生成する。カルボカチオンの中でも、C+がアリル位にあるアリルカチオンやC+がベンジル位にあるベンジルカチオンは共鳴によりπ電子が非局在化するので安定性が高くなる。
よって、Dの化合物はSN1反応が起こりやすい基質である。
☆ 化合物EのSN1の進行の可否
化合物Eから臭素が自発的に脱離して生成するカルボカチオンは、アリルカチオンでもベンジルカチオンでもないノーマルな第1級のカルボカチオンである。ノーマルな第1級カルボカチオンの安定性は低いので、Eを基質とするSN1反応は起こりにくい。
☆ DとEのSN2の反応性の比較
Dは第1級ハロゲン化ベンジルであり、第1級ハロアルカンで反応中心炭素の置換基の数が少ないことに加え、電子求引性の電子効果を与えるフェニル基が結合しているので反応中心炭素のδ+が強まっているため、より一層に求核攻撃が起こりやすくなっている。よって、SN2反応の反応性はノーマルな第1級ハロアルカンのEよりDの1級ハロゲン化ベンジルの方が高いと考えられる。
以上より、化合物Dを基質とする求核置換反応は、化合物Eよりも容易に進行する。
★ 置換基による電子求引性の電子効果により反応中心炭素の部分正電荷(δ+)が強められると、求核攻撃を受けやすくなり、SN2反応が進行しやすくなる。
・ ハロゲン化アリルやハロゲン化ベンジルは、ビニル基およびフェニル基が電子求引性電子効果を与えるので、反応中心炭素の部分正電荷(δ+)が強まり、求核攻撃を受けやすくなるのでSN2反応が進行しやすくなる。
第1級ハロゲン化ベンジルや第1級ハロゲン化アリルのSN2の反応性は、ハロメタン(H3C−X)よりも高いことが知られている。
・ 酸素原子などの電気陰性度の大きい原子の置換基はsp3炭素に対して誘起効果による電子求引性電子効果を与えるので、反応中心炭素の部分正電荷(δ+)が強まり、求核攻撃を受けやすくなるのでSN2反応が進行しやすくなる。
また、ハロゲン化アリルやハロゲン化ベンジルでSN2が進行しやすい理由として、
SN2の三方両錘型の遷移状態において、ベンジル位やアリル位のp軌道が置換基の二重結合を形成する炭素のp軌道と重なるため、遷移状態が安定化するためとの説もある。