ハロゲン化シクロヘキサンのE2脱離 総合問題 104回薬剤師国家試験問101
104回薬剤師国家試験 問101
以下に示すE2反応に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
1 化合物Aの最も安定な立体配座はUである。
2 脱離反応はTの立体配座のときに進行する。
3 主生成物はBである。
4 この反応はカルボカチオン中間体を経由する。
5 この反応の速度は、化合物A及びNaOC2H5のいずれの濃度にも比例する。
104回薬剤師国家試験 問101 解答解説
◆ 1について
1 〇 化合物Aの最も安定な立体配座はUである。
シクロヘキサン誘導体では、アキシアル位にあるもの同士による立体ひずみが生じる。
これを1,3−ジアキシアル相互作用という。
1,3‐ジアキシアル相互作用については下記のリンク先を参照
ジアキシアル相互作用とひずみエネルギー
サイズの大きい置換基ほど、アキシアル位の時の1,3−ジアキシアル相互作用は大きい。
本問では、1,3−ジアキシアル相互作用の合計が小さい配座が、
相対的に安定な立体配座と考えられる。
Tの立体配座では、イソプロピル基とメチル基がアキシアル位をとるので、これらの置換基の1,3−ジアキシアル相互作用の立体ひずみが生じる。
Uの立体配座では、塩素原子がアキシアル位をとるので、塩素原子の1,3−ジアキシアル相互作用の立体ひずみが生じる。
イソプロピル基は、比較的立体的なサイズが大きい置換基なので、その1,3−ジアキシアル相互作用は相対的に大きいと考えられる。
よって、Uの1,3−ジアキシアル相互作用はTよりも小さいと考えられ、Uが化合物Aの最も安定な立体配座であると考えられる。
TとUは互いに環反転したもの同士だが、平衡は安定なUに偏る。
◆ 4および5について
4 × この反応はカルボカチオン中間体を経由する。
→ 〇 E2反応は一段階で済む反応であり、カルボカチオン中間体を経由しない。
5 〇 この反応の速度は、化合物A及びNaOC2H5のいずれの濃度にも比例する。
本問の反応は、ハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物を基質としたE2反応(二分子脱離反応)という脱離反応である。
第2級、第3級のハロゲン−sp3炭素の構造を有するハロゲン化合物に、ナトリウムエトキシドなどの強塩基を反応させると、ハロゲン−sp3炭素に隣接する炭素に結合する水素が、塩基によってプロトンとして引き抜かれると同時に、ハロゲンが脱離し、アルケンが生成する。この脱離反応をE2反応(二分子脱離反応)という。E2反応は、一段階の反応である。
この反応が二分子脱離反応(E2反応)と呼ばれる理由は、
律速段階で基質と塩基の二分子が同時に関わるからである。
よって、E2反応の反応速度は、基質の濃度と塩基の濃度の両方に比例し、
下記の二次反応速度式で記述される。
E2反応の反応速度 = k ×[基質]×[塩基]
(k:反応速度定数)
以上より、本問のE2反応の速度は、
基質である化合物A及び塩基であるNaOC2H5のいずれの濃度にも比例する。
なお、カルボカチオン中間体を経由する脱離反応は、E1反応である。
E1反応については下記のリンク先を参照
E1反応について
◆ 2について
2 × 脱離反応はTの立体配座のときに進行する。
→ 〇 脱離反応はUの立体配座のときに進行する。
★ E2反応は、脱離する水素と脱離基について、互いにトランスの位置となるアンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
アンチペリプラナー形とは、隣接する2つの炭素に結合する2つの原子の立体配座について、同一平面にあって、かつ、ねじれ形をとることを指す。
ハロゲン化合物のE2反応は、脱離する水素とハロゲン(X)について、アンチペリプラナー形の立体配座で進行する。
★ シクロヘキサン誘導体でのE2反応は、脱離する水素と脱離基(X)がトランスジアキシアル位の時に進行する。
シクロヘキサン誘導体における水素と脱離基(X)のアンチペリプラナー形とは、水素とXがトランスジアキシアル位にある立体配座を指す。よって、ハロゲン化シクロヘキサンのE2反応は、脱離する水素とXがトランスジアキシアル位にある立体配座で進行する。
本問のAにおいて、
脱離する水素とClがトランスジアキシアル位にあるのは、
Uの立体配座である。
よって、Aを基質とするE2反応は、Uの立体配座で進行する。
◆ 3について
3 × 主生成物はBである。
→ 〇 主生成物はCである。
★ E2反応のような脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素のアルキル置換基の数が多いものが主生成物となる。これをセイチェフ則またはザイチェフ則と呼ぶ。
脱離反応の生成物がセイチェフ則に従う理由として、アルケンは、アルキル置換基の数が多いほど、熱力学的な安定性が高いことが挙げられる
アルケンの安定性については下記のリンク先を参照
アルケンの安定性
Aを基質としてE2反応が進む場合、塩基によって引き抜かれる水素の候補として、下記の図のHbとHcが挙げられる。
Hbが塩基に引き抜かれてE2反応が進行した場合、
二置換アルケンのBが生成する。
Hcが塩基に引き抜かれてE2反応が進行した場合、
三置換アルケンのCが生成する。
脱離反応では、通常、生成するアルケンについて、アルケンの2つの炭素の置換基の数が多いものが主生成物となる(セイチェフ則またはザイチェフ則)。
よって、Aを基質とするE2反応の主生成物は、三置換アルケンのCである。
なお、E2反応は、主生成物がセイチェフ則に従うことよりも、
脱離する水素と脱離基がアンチペリプラナー形の配座で進行することの方が優先である。
そのため、E2反応の主生成物が、セイチェフ則に従わないことがある。
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