求核性の高さ(強さ) 電子密度,立体障害,原子半径,電気陰性度等との関係 89回薬剤師国家試験問7
第89回薬剤師国家試験 問7
次の各組において、1-bromobutaneと2種の試薬との求核反応の速さを比較してみよう。
a (CH3)2N− と(CH3)2NH
b (CH3)3B と(CH3)3N
c (CH3)2NH と((CH3)2CH)2NH
d H2OとH2S
e CH3NH2 と CH3OH
第89回薬剤師国家試験 問7 解答解説
1-bromobutaneとと求核剤を反応させると、
1-bromobutaneとを基質として、臭素と求核剤が置換するSN2反応(二分子求核置換反応)が起こる。
よって、本問では、
選択肢の物質のSN2反応の反応性を比較することになるが、
求核性が高いほど、反応性は高い。
物質の求核性と塩基性については下記のリンク先を参照
塩基性・求核性とは?
◆ aについて
a (CH3)2N− と(CH3)2NH
★ 負電荷を帯びるアニオンの試薬は電気的に中性の試薬より求核性が強い。
(CH3)2N−は負電荷を帯びるアニオンであり、
(CH3)2NHは電気的に中性の試薬である。
よって、求核性は、
(CH3)2N− > (CH3)2NH
である。
◆ bについて
b (CH3)3B と(CH3)3N
物質が求核性を有するには供与可能な非共有電子が必要である。
(CH3)3Bのホウ素(B)は供与可能な非共有電子を持たず、空のp軌道を有する。
よって、(CH3)3Bは非共有電子対を受け取るルイス酸であり、求核性は無い。
したがって、求核性は、
(CH3)3B < (CH3)3N
である。
◆ cについて
c (CH3)2NH と((CH3)2CH)2NH
求核攻撃をする窒素周辺の立体障害が小さいほど求核反応の反応性は高い。
よって、求核性は、
(CH3)2NH > ((CH3)2CH)2NH
である。
★ 供与可能な非共有電子対を持つ原子周辺の立体障害が大きいと求核反応の反応性は低くなる。
(CH3)2NHは、供与可能な非共有電子対を持つNにメチル基が2つ置換した2級アミンである。
((CH3)2CH)2NHは、供与可能な非共有電子対を持つ窒素にイソプロピル基が2つ置換した2級アミンである。イソプロピル基はメチル基と比較して相対的にかさ高く、立体障害が大きい。
よって、窒素周辺の立体障害が小さい(CH3)2NHの方が、求核反応の反応性は高い。
◆ dについて
d H2OとH2S
求核性を同族原子同士で比較すると、
周期表で下に行くほど、求核性は強くなる。
したがって、求核性は、
H2O < H2S
である。
★ 同一族原子の求核性の比較では、原子番号が大きいほど求核性が強い。
原子半径が大きくなるほど、最外殻電子と原子核の距離が大きくなり、最外殻電子が原子核に引き付けられる力が弱まり、最外殻電子の反応性が高まるので、同族同士の比較では、原子番号が大きいほど求核性は強くなる。
O原子とS原子はいずれも16族元素であり、原子番号はS原子の方が大きい。
よって、求核性は、
H2O < H2S
である。
◆ eについて
e CH3NH2 と CH3OH
求核性を同一周期の原子同士で比較すると、
電気陰性度が大きいほど求核性は弱いので、
求核性は、
CH3NH2 > CH3OH
である。
★ 同一周期の原子の求核性の比較では、電気陰性度の大きい原子ほど求核性は弱くなる。
電子の最外殻が同じである同一周期の原子の求核性の比較では、陽子の数が多く電気陰性度の大きい原子ほど、最外殻電子が原子核に引き付けられる力が強まり、最外殻電子の反応性が低下するので、同一周期の原子同士の比較では、陽子の数が多く電気陰性度が大きいほど求核性は弱くなる。
N原子とO原子はいずれも第2周期の原子であり、O原子の方が陽子の数が多く電気陰性度が大きい。よって、O原子はN原子よりも求核性は弱い。
したがって、求核性は、
CH3NH2 > CH3OH
である。