懸濁剤・乳剤に関する記述 83回薬剤師国家試験問170
83回薬剤師国家試験 問170
懸濁剤・乳剤に関する次の記述の正誤について、正しいものはどれか。
a 自由降性の粒子は、ケーキングしやすく、容易に再分散しない。
b 懸濁剤の安定性は、粒子径を小さくしたり、アラビアゴム、タルクなどの懸濁化剤を添加することで向上する。
c 転相温度(PIT)より高い温度で粗乳化を行い。その後温度をPIT以下に下げると、転相の際に微細化が行われ、安定な乳剤を調整することができる。
d HLB(hydrophile-lipophile bakance) 値の大きい乳化剤はw/o型乳剤を安定させる。
83回薬剤師国家試験 問170 解答解説
◆ aについて
a 〇 自由降性の粒子は、ケーキングしやすく、容易に再分散しない。
懸濁剤(サスペンション)での粒子の沈降について、
粒子同士が凝集せずに沈降することを分散沈降または自由沈降と呼ぶ。
分散沈降(自由沈降)を起こした場合、底に沈んだ粒子同士が凝集して密な集合体となり、振とうしても沈積層を再分散できなくなることがある。
このように、懸濁剤において、粒子が分散沈降(自由沈降)を起こし、再分散が困難な強固な凝集体を形成することをケーキングという。
一方、懸濁剤(サスペンション)での粒子の沈降について、
沈降途中で粒子同士が凝集し、二次粒子を形成してから沈降することを凝集沈降と呼ぶ。
凝集沈降で形成される二次粒子は空隙率の高い疎な凝集体であり、
分散沈降(自由沈降)の場合よりも振とうにより沈積層を再分散しやすい。
◆ bについて
b × 懸濁剤の安定性は、粒子径を小さくしたり、アラビアゴム、タルクなどの懸濁化剤を添加することで向上する。
懸濁剤の安定化について、
分散相の粒子径を小さくしたり、
懸濁化剤(懸濁安定化剤)を添加して分散媒の粘度を高くすることにより、
粒子の沈降速度が低下し、懸濁剤の安定性は向上する。
アラビアゴムは増粘効果があり懸濁化剤として用いられるが、
タルクは滑沢剤であり、懸濁化剤ではない。
関連問題
ケーキングを起こしやすい懸濁剤の安定化 94回問172d
◆ cについて
c 〇 転相温度(PIT)より高い温度で粗乳化を行い。その後温度をPIT以下に下げると、転相の際に微細化が行われ、安定な乳剤を調整することができる。
非イオン性の界面活性剤は、温度上昇に伴い、親水基の脱水和が進行するため親水性が低下する。
そして、温度が曇点を超えると、非イオン性の界面活性剤は親水性から親油性へと変化し、乳剤はo/w型からw/o型乳剤へと転相する。この時の温度を転相温度(Phase Inversion Temperature:PIT)と呼ぶ。
その後温度を下げると、非イオン性の界面活性剤の親水性が上昇し、転相温度を下回ると、乳剤はw/o型からo/w型乳剤へと転相する。この冷却を攪拌しながら行うと、分散粒子が微細なo/w型乳剤が得られる。この乳化法を転相乳化と呼ぶ。
◆ dについて
d × HLB(hydrophile-lipophile bakance) 値の大きい乳化剤はw/o型乳剤を安定させる。
→ 〇 HLB(hydrophile-lipophile bakance) 値の大きい乳化剤はo/w型乳剤を安定させる。
エマルション(乳剤)の生成において、
乳化剤を相対的に良く溶かす相が連続相(外相,分散媒)になりやすいことをバンクロフト(Bancroft)の経験則と呼ぶ。
バンクロフト(Bancroft)の経験則によると、
親水性の乳化剤(HLBの大きい乳化剤)を添加するとo/w 型乳剤が形成されやすく、
親油性の乳化剤(HLBの小さい乳化剤)を添加するとw/o 型乳剤が形成されやすい。