分散系の安定性に関する記述 94回薬剤師国家試験問172
94回薬剤師国家試験 問172
分散系の安定性に関する記述の正誤について、正しいものはどれか。
a 液中に分散したコロイド粒子は、Stokesの式に従って沈降する。
b 親水性コロイドは、溶液の電解質濃度を高めることによって安定化できる。
c 乳剤のクリーム分離は、内相すべてが完全に合一することによって起こる。
d ケーキングを起こしやすい懸濁剤は、分散媒の粘度を増大させることによって安定化できる。
94回薬剤師国家試験 問172 解答解説
◆ aについて
a × 液中に分散したコロイド粒子は、Stokesの式に従って沈降する。
コロイド粒子とは粒子径が1nm〜1μmの粒子を指す。
一般に、液中のコロイド粒子はブラウン運動をするためにほとんど沈降しない。
なお、粒子径が1μm以上の粒子を粗大粒子と呼ぶが、
粗大粒子の沈降速度はStokes(ストークス)の式に従う。
ストークス式については記述dの解説を参照
◆ bについて
b × 親水性コロイドは、溶液の電解質濃度を高めることによって安定化できる。
→ 〇 親水性コロイドは、溶液の電解質濃度を高めると不安定になる。
親水コロイドの粒子表面には電気二重層と水和層が形成されており、
この層がコロイド粒子同士の凝集を防ぎ、
分散状態の安定に寄与している。
親水コロイドに対して多量の電解質を添加すると、
親水コロイド表面において水和層の脱水と電荷の中和が起こり、
親水コロイド粒子同士が凝集し、析出して白濁(凝析)する。
これを塩析と呼ぶ。
関連問題
親水コロイドの塩析 多量の電解質で凝集沈殿 88回問22d
◆ cについて
c × 乳剤のクリーム分離は、内相(分散相)すべてが完全に合一することによって起こる。
乳剤(エマルション)において、
分散媒(外相)と分散相(内相)の密度差により、分散相が浮上または沈降してクリーム状のものが形成される現象をクリーミング(クリーム分離)と呼ぶ。
また、乳剤(エマルション)において、
凝集とは分散相の液滴同士がくっついて集合体となることであり、
凝集が進み、液滴の集合体から1つの大きな液滴になることを合一と呼ぶ。
凝集や合一した乳剤は振り混ぜても再分散されない。
乳剤の分散相(内相)が単にクリーミングしているだけで、凝集や合一をしていないこともあり、
この場合は振とうすることにより再分散させることができる。
◆ dについて
d 〇 ケーキングを起こしやすい懸濁剤は、分散媒の粘度を増大させることによって安定化できる。
懸濁剤において、粒子が分散沈降(自由沈降)を起こし、再分散が困難な強固な凝集体を形成することをケーキングという。
ケーキングを起こしやすい懸濁剤を安定化するには、分散沈降を抑制して分散性を維持すれば良いが、
そのためには粒子の沈降速度を遅くすれば良い。
懸濁剤粒子の分散沈降の速度は次のストークス(Stokes)の式に従う。
ストークス式によると、粒子の沈降速度を遅くする方法として次のことが挙げられる。
・粒子径を小さくする。
・分散媒の粘度を大きくする。
・粒子の密度と分散媒の密度の差(ρ−ρ0)を小さくする。