イオン性界面活性剤の水への溶解度と温度との関係 82回薬剤師国家試験問171
82回薬剤師国家試験 問171
次の図はイオン性界面活性剤の水への溶解度と温度との関係を示したものである。この図に関する次の記述の正誤について、正しいものはどれか。
a 点Aをクラフト点と呼び、これはミセル形成の始まる最低温度である。
b cmc以上の濃度では界面活性剤の分子はすべてミセルを形成しており、単分子状態のものは存在しない。
c Tween系の界面活性剤はこの図のような現象を示さない。
d アルキル鎖の長い界面活性剤では、点Aの温度は高くなる。
82回薬剤師国家試験 問171 解答解説
◆ a,cについて
a 〇 点Aをクラフト点と呼び、これはミセル形成の始まる最低温度である。
c 〇 Tween系の界面活性剤はこの図のような現象を示さない。
点Aの温度以上になるとイオン性界面活性剤の溶解度が急上昇している。
イオン性界面活性剤は、ある温度以上で水への溶解度が急激に上昇する。この温度をクラフト点と呼ぶ。
温度がクラフト点になると、イオン性界面活性剤はミセルを形成し始め、温度上昇と共に水への溶解度が急激に上昇するようになる。
よって、クラフト点はイオン性界面活性剤のミセル形成の始まる最低温度であるといえる。
クラフト点があるのはイオン性界面活性剤のみであり、
非イオン性界面活性剤にクラフト点はない。
Tween系とはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルのことであり、
非イオン性界面活性剤の1種である。
よって、Tween系にクラフト点はない。
非イオン性界面活性剤については下記のリンク先を参照
非イオン性界面活性剤の種類と例
なお、非イオン性界面活性剤はある温度以上で水への溶解度が急激に低下する現象が見られ、この温度を曇点と呼ぶ。
曇点の詳細は下記のリンク先を参照
非イオン性界面活性剤の水への溶解度は曇点以上で急激に低下 99回問175の4
◆ bについて
b × cmc以上の濃度では界面活性剤の分子はすべてミセルを形成しており、単分子状態のものは存在しない。
臨界ミセル濃度(cmc)とは界面活性剤分子がミセルを形成し始める濃度である。
臨界ミセル濃度(cmc)以上では、界面活性剤分子はミセルの他、モノマー(単分子)やミセル以外の会合体としても存在する。
溶液の界面活性剤濃度の上昇に対する界面活性剤分子の動向および表面張力の推移は下記の通り。
◆ dについて
d 〇 アルキル鎖の長い界面活性剤では、点Aの温度は高くなる。
イオン性界面活性剤の疎水性基の炭素数が増加すると、
界面活性剤の疎水性は大きくなり、
クラフト点は高くなる。