最初に広域スペクトラムを有する抗菌薬を投与し、その後より狭いスペクトラムの抗菌薬に変更する治療プロセス 111回薬剤師国家試験問87の解説
111回薬剤師国家試験 問87
最初に広域スペクトラムを有する抗菌薬を投与し、血液培養検査と薬剤感受性試験の結果を確認後、より狭いスペクトラムの抗菌薬に変更する治療プロセスはどれか。1つ選びなさい。
1 エンピリック
2 ディフィニティブ
3 デ・エスカレーション
4 デブリードマン
5 テーパリング
111回薬剤師国家試験 問87 解答解説
最初に広域スペクトラムを有する抗菌薬を投与し、
血液培養検査と薬剤感受性試験の結果を確認後、
より狭いスペクトラムの抗菌薬に変更する治療プロセスは、
選択肢3のデ・エスカレーションです。

以下で解説します。
デ・エスカレーションとは、感染症治療で最初は原因菌が不明なため、
広域スペクトラムの抗菌薬を使い、
その後、血液培養検査や薬剤感受性試験の結果を確認して、
原因菌に有効なより狭域の抗菌薬へ変更する治療プロセスです。
たとえば、敗血症など重症感染症では、
初期対応が遅れると生命に関わるため、
まず多くの菌に効く広域抗菌薬を投与します。
その後、原因菌が判明し、「この菌にはこの抗菌薬で十分効く」と分かれば、
不要に広い抗菌薬を続けず、狭域の薬に切り替えます。
目的は、必要以上に広い抗菌薬を使い続けないことです。
広域抗菌薬を長く使うと、耐性菌の出現、腸内細菌叢の乱れ、
Clostridioides difficile感染症などのリスクが高まります。
そのため、原因菌が分かった段階で、
より適切で狭域な抗菌薬に切り替えます。
重要なのは、
デ・エスカレーションは単なる「弱い薬にする」ことではない点です。
原因菌に対して十分効果がある抗菌薬を選びつつ、
不要なカバー範囲を減らすという考え方です。
これにより、耐性菌の出現を抑える、副作用を減らす、
患者の経済的負担や医療費を抑える、などの利点があります。
以下では他の選択肢について解説します。
1 エンピリック
エンピリック治療とは、原因菌がまだ特定されていない段階で、
患者の症状、感染部位、重症度、想定される原因菌などから判断して、
経験的に抗菌薬を開始する治療です。
たとえば、敗血症や肺炎、髄膜炎などでは、
培養結果を待っていると治療開始が遅れるため、
まず広域スペクトラムの抗菌薬を使います。
この問題文の前半にある
「最初に広域スペクトラムを有する抗菌薬を投与」
という部分は、エンピリック治療にあたります。
2 ディフィニティブ
ディフィニティブ治療とは、原因菌や薬剤感受性が判明した後に、
その結果に基づいて行う確定的治療です。
血液培養などで原因菌が判明し、
薬剤感受性試験で「どの抗菌薬が有効か」が分かった後、
その菌に適した抗菌薬を選択して治療します。
たとえば、広域抗菌薬で治療を開始した後、
原因菌がメチシリン感受性黄色ブドウ球菌、つまりMSSAと判明した場合、
MRSAまでカバーする抗菌薬を続けるのではなく、
MSSAに適した抗菌薬へ変更します。
これがディフィニティブ治療です。
ただし、ディフィニティブ治療は“確定治療”という広い概念です。
その中で、広域から狭域へ変更することを特にデ・エスカレーションといいます。
4 デブリードマン
デブリードマンとは、
壊死した組織、感染した組織、異物、膿などを
外科的・物理的に取り除く処置です。
抗菌薬の変更を指す言葉ではありません。
たとえば、
壊死性筋膜炎、糖尿病性足潰瘍、褥瘡感染、膿瘍などでは、
抗菌薬だけでは感染コントロールが不十分なことがあります。
感染巣に壊死組織や膿が残っていると、
抗菌薬が十分に届きにくく、菌が残りやすいためです。
このような場合に、
感染源を取り除く目的でデブリードマンが行われます。
5 テーパリング
テーパリングとは、「漸減法」ともいわれ、
薬剤を急に中止せず、徐々に減量していくことです。
抗菌薬治療の用語というより、
主に副腎皮質ステロイド、ベンゾジアゼピン系薬、
抗てんかん薬、抗うつ薬、オピオイドなどで使われることが多い言葉です。
たとえば、長期間使用していたステロイドを急に中止すると、
副腎不全やリバウンド(治療していた疾患の急激な悪化)
を起こす可能性があるため、少しずつ減量します。
このような減量方法をテーパリングといいます。
抗菌薬は通常、感染症ごとに必要な投与期間を設定し、
終了時は減量せずに中止することが一般的です。