定容熱容量の温度依存性 98回薬剤師国家試験問92
98回薬剤師国家試験 問92
図は、水素分子のモル熱容量(定容熱容量(Cv,m))と温度との関係を表す。
定容熱容量(Cv,m)の温度依存性に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。
ただし、この温度依存性に、水素分子における電子運動は関与しないと仮定する。
Rは気体定数(J・mol−1・K−1)を表す。
1 100K より低い温度では、水素分子が液化しているため、定容熱容量は低い値を示す。
2 100K より低い温度での定容熱容量は、水素分子の並進運動のみが寄与する。
3 298K における定容熱容量は、水素分子の並進運動エネルギー、回転運動エネルギー、振動運動エネルギーより求められる。
4 温度の上昇にともない水素分子が、回転運動、振動運動のエネルギー準位へと分布できるようになり、定容熱容量が増大する。
5 10,000Kにおいては、水素分子の開裂が起こるため、定容熱容量が高い値を示す。
98回薬剤師国家試験 問92 解答解説
熱容量とは物質の温度を1K上げるのに必要なエネルギーのことである。
定容とは体積一定のことであるので、
定容熱容量とは、体積一定の下、
物質の温度を1K上げるのに必要なエネルギーのことである。
また、定容熱容量は「体積一定の下での温度の変化に対する内部エネルギー(U)の変化量」であり、
下記のように表される。
内部エネルギーとは、系の各種のエネルギーの総和であるが、
本問では、
水素分子について、並進エネルギー,回転エネルギー,振動エネルギーの寄与のみを考える。
並進,回転,振動エネルギー準位については
下記のリンク先を参照
並進,回転,振動,電子遷移とエネルギー準位 103回問951,2
◆ 1,2について
1 × 100Kより低い温度では、水素分子が液化しているため、定容熱容量は低い値を示す。
→ 〇 100Kより低い温度では、内部エネルギーの変化に並進運動の励起しか寄与しないため、定容熱容量は低い値を示す。
2 〇 100Kより低い温度での定容熱容量は、水素分子の並進運動のみが寄与する。
100K以下の極低温では、エネルギー準位間の間隔が最も狭い並進運動エネルギーのみ遷移が起こり、それだけが内部エネルギーの上昇に寄与していると考えられる。
◆ 3,4,5について
3 × 298K における定容熱容量は、水素分子の並進運動エネルギー、回転運動エネルギー、振動運動エネルギーより求められる。
→ 〇 298K における定容熱容量は、水素分子の並進運動エネルギー、回転運動エネルギーより求められる。
4 〇 温度の上昇にともない水素分子が、回転運動、振動運動のエネルギー準位へと分布できるようになり、定容熱容量が増大する。
5 × 10,000Kにおいては、水素分子の開裂が起こるため、定容熱容量が高い値を示す。
→ 〇 10,000Kにおいては、並進,回転のエネルギーに加え、振動エネルギー準位の遷移が起こるため、定容熱容量が高い値を示す。
温度が上昇していき、水素分子が得られる熱エネルギーが大きくなるにつれ、並進運動の遷移(励起)に加え、エネルギー準位間の間隔がより広い回転運動,次いで振動運動のエネルギー準位の遷移(励起)が起こりやすくなり、それらが内部エネルギーの上昇に寄与し、定容熱容量が上昇する。
設問の図より、
100Kの少し手前から定容熱容量が上昇し始めているが、
これは、並進運動のエネルギーに加え、回転運動のエネルギー準位の遷移(励起)が起こるようになり、
これらが水素分子の内部エネルギーの上昇に寄与し始めたことを示す。
設問の図より、
100Kの少し手前〜700Kでは、
内部エネルギーの変化量=並進エネルギーの変化量+回転エネルギーの変化量
だと考えられる。
よって、選択肢3の298K における定容熱容量は、
水素分子の並進運動エネルギーと回転運動エネルギーより求められる。
設問の図より、
700K辺りから定容熱容量がさらに上昇し始めているが、
これは、並進,回転のエネルギー準位の遷移に加え、
振動エネルギー準位の遷移も起こるようになったことを示す。
よって、選択肢5の
「10,000Kにおいては、並進,回転のエネルギーに加え、振動エネルギー準位の遷移が起こるため、定容熱容量が高い値を示す。」
という記述は正しい。
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