日本薬局方酒石酸及びその立体異性体の問題 106回薬剤師国家試験問8
第106回薬剤師国家試験 問8
日本薬局方酒石酸(A)及びその鏡像異性体Bに関する記述の正誤を判定してみよう。
なお、Aの水溶液(1 → 10)は右旋性である。
1 Aは(+)−酒石酸である。
2 AとBの融点は同じである。
3 AとBの等量混合物はラセミ体である。
4 AとBの比旋光度の絶対値は同じである。
5 A及びB以外に立体異性体が2つ存在する。
第106回薬剤師国家試験 問8 解答解説
◆ 1について
1 ○ Aは(+)−酒石酸である。
化合物がある平面偏光(直線偏光)に対して、偏光面を右に回転させる右旋性を有している場合、旋光度の符号は+であり、化合物の名称に右旋性を表す+またはdを付ける。dは右旋性のdextrorotatoryの頭文字である。
化合物がある平面偏光(直線偏光)に対して、偏光面を左に回転させる左旋性を有している場合、旋光度の符号は−であり、化合物の名称に左旋性を表す−またはl (エル)を付ける。lは左旋性のlevorotatoryの頭文字である。
問題文に「Aの水溶液(1 → 10)は右旋性である」とあるので、
Aは(+)−酒石酸、または、(d)−酒石酸である。
なお、Aの鏡像異性体のBは左旋性であり、(−)−酒石酸、または、(l)−酒石酸である。
◆ 2について
2 ○ AとBの融点は同じである。
A((+)−酒石酸)とB((−)−酒石酸)は互いに鏡像異性体(エナンチオマー)の関係にある。
互いに鏡像異性体のもの同士では、沸点、融点、溶解度などの物理的性質は等しい。
◆ 3について
3 ○ AとBの等量混合物はラセミ体である。
互いに鏡像異性体(エナンチオマー)の関係にある2つの化合物の等量混合物をラセミ体という。
AとBは互いに鏡像異性体(エナンチオマー)の関係にあるので、AとBの等量混合物はラセミ体である。
◆ 4について
4 ○ AとBの比旋光度の絶対値は同じである。
互いにエナンチオマーの関係にあるもの同士の旋光度は、絶対値は等しく、正負の符号は逆となる。
例えば、ある平面偏光について、一方のエナンチオマーの旋光度がX°であったとすると、もう一方のエナンチオマーの旋光度は−X°となる。
◆ 5について
5 × A及びB以外に立体異性体が2つ存在する。
→ ○ A及びB以外に立体異性体が1つ存在する。
不斉中心をn個持つ化合物について、1つの不斉中心ごとにRとSの2通りの絶対配置があるので、単純計算では2のn乗個の立体配置異性体が存在することになる。しかし、立体異性体の中に分子内対称面を持つメソ体が含まれると、立体異性体の数は単純計算通りにはならない。
立体異性体の中にメソ体が含まれるか調べるために、わかりやすいようA((+)−酒石酸)をフィッシャー投影式で表してみる。
Aのフィッシャー投影式を参考に、酒石酸の立体異性体のフィッシャー投影式を書き出すと下記のようになる。
上図のC(R,S)とD(S,R)は分子内対称面を持つのでメソ体であり、これらは同一化合物である。
よって、酒石酸には3種類の立体異性体が存在する。