93回薬剤師国家試験問7 立体化学
第93回薬剤師国家試験 問7
フィッシャー投影式で示した光学活性体アを還元したところ、2種の異性体イ及びウが得られた。本反応に関する記述の正誤を判定してみよう。
a イとウは、ジアステレオマーの関係にある。
b イはアキラルな分子である。
c イは不斉炭素を持たない。
d ウの絶対配置は2R,3Sである。
e イ及びウが生成する際、両者の遷移状態のエネルギーは等しい。
第93回薬剤師国家試験 問7 解答解説
◆aについて
a ○ イとウは、ジアステレオマーの関係にある。
ある2つの化合物について、全ての不斉中心の立体が互いに逆になっている時、これらの化合物は互いにエナンチオマーの関係にあるといえる。
ある2つの化合物について、エナンチオマーの関係以外の立体異性体である場合、互いにジアステレオマーの関係にあるという。
イとウの構造式を見比べると、2の不斉中心の立体はイとウで同じであるが、3の不斉中心の立体はイとウで互いに逆である。したがって、イとウは互いにジアステレオマーの関係である。
★参考外部サイトリンク
立体異性体(wikipediaさん)
キラリティーと鏡像(光学)異性体(役に立つ薬の情報〜専門薬学さん)
◆bについて
b ○ イはアキラルな分子である。
キラリティーとは、鏡像と重ね合わすことができないことである。
分子構造中に対称面を描くことのできる化合物をメソ化合物(メソ体)という。対称面とは、分子を互いにエナンチオマー(鏡像)の関係になる2つの対称構造に分ける面である。
構造中に対称面を描くことができるメソ化合物(メソ体)は、鏡像と重ね合わすことができ、キラリティーを示さないアキラルな化合物である。
上記のように、
イは2位のCと3位のCの間に対称面を描くことができるのでメソ体であり、キラリティーを示さないアキラルな化合物である。
★参考外部サイトリンク
キラルとアキラルの違い(電池の情報サイトさん)
◆cについて
c × イは不斉炭素を持たない。
イの2位のCと3位のCは不斉炭素である。
★参考外部サイトリンク
大学の有機化学:立体化学を知る(不斉炭素編)(理系のための備忘録さん)
◆dについて
d × ウの絶対配置は2R,3Sである。
→ ○ ウの絶対配置は2R,3Rである。
不斉中心の絶対配置の判別の仕方については、下記のリンク先を参照
不斉中心の絶対配置の判別について
フィッシャー投影式では、左右の線は紙面から手前に伸びる結合を示し、端の上下の線は紙面から奥側に伸びる結合を示し、端以外の上下の線は紙面上を伸びる結合を示す。
・ウの絶対配置について
2の炭素の立体
CのHが紙面から手前側にあり、@ABが反時計回りに並んでいるのでRである。よって、2R
3の炭素の立体
CのHが紙面から手前側にあり、@ABが反時計回りに並んでいるのでRである。よって、3R
以上より、
ウの絶対配置は2R3Rである。
・イの絶対配置について
2の炭素の立体
CのHが紙面から手前側にあり、@ABが反時計回りに並んでいるのでRである。よって、2R
3の炭素の立体
CのHが紙面から手前側にあり、@ABが時計回りに並んでいるのでRである。よって、3S
以上より、
イの絶対配置は2R3Sである。
下記はイとウの絶対配置である。
イとウは互いにジアステレオマーの関係である。
★参考外部サイトリンク
R,S 絶対配置(生命系のための理工学基礎さん)
フィッシャー投影式|RS絶対配置の決定(生命系のための理工学基礎さん)
◆eについて
e × イ及びウが生成する際、両者の遷移状態のエネルギーは等しい。
→ 〇 イ及びウが生成する際、両者の遷移状態のエネルギーは異なる。
遷移状態とは、反応おいて出発物が生成物になる間に経る最もエネルギーの高い状態である。
設問の反応について、
イとウは互いにジアステレオマーの関係にあるものなので、両者の遷移状態のエネルギーは異なる。