ラジカルハロゲン化 連鎖,トルエン,飽和炭化水素 第90回薬剤師国家試験問11
第90回薬剤師国家試験 問11
ラジカルハロゲン化反応に関する以下の記述の正誤を判定してみよう。
a メタンのラジカル塩素化反応は連鎖反応であり、「開始」、「成長」(または「伸長」)、「停止」という段階が含まれる。
b トルエンに対するラジカル塩素化反応は、ベンゼン環の2位と4位に優先して起こる。
c 飽和炭化水素のラジカルハロゲン化反応は、3級炭素より1級炭素に優先して起こる。
第90回薬剤師国家試験 問11 解答解説
◆ aについて
a ○ メタンのラジカル塩素化反応は連鎖反応であり、「開始」、「成長」(または「伸長」)、「停止」という段階が含まれる。
アルカンのラジカルハロゲン化反応は次のように連鎖的に進む。
(1)開始
ハロゲン分子(X2)に紫外線の光エネルギーが与えられ、X−X結合が均一開裂し(ホモリシス)、ハロゲンラジカル(X・)が生成する。
(2)成長
ハロゲンラジカル(X・)がアルカンから水素をラジカルとして引き抜き、ハロゲン化水素(HX)とアルカンの炭素ラジカル(C・)を生じる。炭素ラジカル(C・)はハロゲン分子(X2)と反応して、ハロゲン化アルキル(RX)とハロゲンラジカル(X・)を生じる。ハロゲンラジカル(X・)がアルカンと反応すると、同じラジカル反応が繰り返される。
(3)停止
ラジカル同士が反応すると、分子のみが生成して新たなラジカルを生成しないので、ラジカル連鎖反応は停止する。
◆ bについて
b × トルエンに対するラジカル塩素化反応は、ベンゼン環の2位と4位に優先して起こる。
→ 〇 トルエンに対するラジカル塩素化反応は、ベンジル位に優先して起こる。
ベンジルラジカル(Ph−C・)やアリルラジカル(C=C−C・)は共鳴安定化するので、ラジカル化反応において優先してベンジル位やアリル位の水素がラジカルとして抜かれやすい。
トルエンはベンジル位に水素があるので、ラジカル塩素化はベンジル位に優先して起こる。
◆ cについて
c × 飽和炭化水素のラジカルハロゲン化反応は、3級炭素より1級炭素に優先して起こる。
→ 〇 飽和炭化水素のラジカルハロゲン化反応は、1級炭素より3級炭素に優先して起こる。
★ 炭素ラジカルの安定性の序列は、安定性の高いものから、
第3級>第2級>第1級>メチル である。
ラジカルは不対電子が1つ浮いている不安定な状態であり、電子を1つ得て不対電子を電子対にしたいため、電子不足な状態である。よって、ラジカルは置換基により電子供与性電子効果が与えられるほど安定性が高まり、電子求引性電子効果が与えられるほど安定性が低下する。
アルキル基は電子供与性電子効果を与える置換基なので、アルキル基の置換数の多いほど炭素ラジカルは安定性が高くなる。
よって、炭素ラジカルの安定性の序列は、
安定性の高いものから、
第3級>第2級>第1級>メチル である。
水素ラジカルが引き抜かれて生成する炭素ラジカルの安定性が高い基質ほど、
ラジカルハロゲン化は起こりやすい。
したがって、炭化水素のラジカルハロゲン化の起こりやすさの序列は、
起こりやすい方から、
第3級炭素>第2級炭素>第1級炭素 である。