ジフェンヒドラミン塩酸塩の合成法 95回薬剤師国家試験問13
第95回薬剤師国家試験 問13
次の反応式は、日本薬局方医薬品ジフェンヒドラミン塩酸塩の合成法の一部を示したものである。この合成法とジフェンヒドラミンの構造に関する記述の正誤を判定してみよう。
a 反応Aは、光による臭素の均一結合開裂 (均等結合開裂、ホモリシス)により開始される。
b 反応Aには、炭素ラジカルの生成が関与する。
c 反応Bは、塩基性条件下における付加反応である。
d ジフェンヒドラミンは、エステル結合をもつ。
第95回薬剤師国家試験 問13 解答解説
◆ aおよびbについて
a ○ 反応Aは、光による臭素の均一結合開裂 (均等結合開裂、ホモリシス)により開始される。
b ○ 反応Aには、炭素ラジカルの生成が関与する。
反応Aはアルカンのラジカルハロゲン化である。
紫外線の光エネルギーが与えられると、臭素(Br2)が均一開裂し(ホモリシス)、臭素ラジカル(Br・)が発生する。
臭素ラジカル(Br・)はアルカンから水素をラジカル(H・)として引き抜き、炭素ラジカル(C・)と臭化水素(HBr)が生成する。ベンジルラジカル(Ph−C・)やアリルラジカル(C=C−C・)は共鳴安定化するので、ベンジル位やアリル位の水素がラジカルとして抜かれやすい。設問の基質ではベンジルラジカル(Ph−C・)が生成する。ベンジルラジカル(Ph−C・)と臭素(Br2)が反応し、ベンジル位が臭素化され、臭素ラジカル(Br・)が生成する。Br・が別の基質と反応すれば同じラジカル反応が繰り返される。ラジカル同士が反応すると、分子のみが生成して新たなラジカルを生成しないので、ラジカル連鎖反応は停止する。
◆ cについて
c × 反応Bは、塩基性条件下における付加反応である。
→ 〇 反応Bは、塩基性条件下における求核置換反応である。
反応Bは、
基質のBrが結合した炭素が正に分極してCδ+となっており、
そこへ(CH3)2NCH2CH2OHが求核攻撃することにより、
基質においてBrと(CH3)2NCH2CH2Oが置換する求核置換反応である。
なお、(CH3)2NCH2CH2OHはアミンとして求核攻撃すると考えるかもしれないが、
3級アミンで窒素周りの立体障害が大きいため、アミンとして求核攻撃はしない。
◆ dについて
d × ジフェンヒドラミンは、エステル結合をもつ。
→ 〇 ジフェンヒドラミンは、エーテル結合をもつ。
基質に対してアルコール(ROH)またはアルコキシドイオン(RO-)が求核攻撃するとアルコキシ基(RO)が結合し、エーテル結合をもつことになる。