88回薬剤師国家試験問8 疎水性相互作用
第88回薬剤師国家試験 問8
次の疎水性相互作用に関する記述の正誤を判定してみよう。
a 疎水性相互作用は、溶質分子周辺の水構造(水分子間で形成される三次元構造)の形成・破壊とは関係がない。
b 界面活性剤の水中におけるミセル形成は、疎水性相互作用と関係がある。
c 疎水性相互作用にはエントロピーの寄与が重要である。
d 疎水性相互作用は、たん白質の高次構造の安定化に寄与している。
e 水銀が水に溶けないのは、極めて高い疎水性相互作用を有するからである。
第88回薬剤師国家試験 問8 解答解説
◆ aについて
a × 疎水性相互作用は、溶質分子周辺の水構造(水分子間で形成される三次元構造)の形成・破壊とは関係がない。
水中に炭化水素基が入ると炭化水素基の周囲に水分子の規則正しいかご状態が形成されていくことで乱雑さが減少していくが、これは熱力学的には自発的変化がエントロピーが減少する方向へ進んでいるという不安定な状態であるので、この状態から、炭化水素基周囲の水分子の規則正しいかご状構造を破壊して水分子の自由度を上げて乱雑さが増すことで熱力学的にエントロピーが増大する方向へ自発的変化が進むべく、炭化水素基周囲から水分子を排除するために炭化水素基同士が集まろうとする。
★参考外部リンク
疎水性相互作用と電荷移動錯体(薬学生のノートまとめさん)
◆ bについて
b ○ 界面活性剤の水中におけるミセル形成は、疎水性相互作用と関係がある。
水中において界面活性剤分子同士は疎水性相互作用により内側に炭化水素基を向けあい、外側に親水性基を向ける形で会合し、ミセルを形成している。
★参考外部サイトリンク
界面活性剤や医薬品の水和(Pirikaさん)
◆ cについて
c ○ 疎水性相互作用にはエントロピーの寄与が重要である。
水中において炭化水素基周囲に水分子の規則正しいかご状構造が形成されることは熱力学的には乱雑さが減少してエントロピーが減少するので不安定である。炭化水素基周囲の水分子の規則正しいかご状構造が破壊されて水分子の配列の乱雑さが増すことは熱力学的に自発的変化がエントロピーが増大するという方向へ進むことになるので、炭化水素基周囲から水分子を排除すべく炭化水素基同士が集まる。
水中において炭化水素基同士が集まる変化は、結果として水分子の動きの自由度を上げて乱雑さが増すことになるので、エントロピーが増大する変化なのである。
◆ dについて
d ○ 疎水性相互作用は、たん白質の高次構造の安定化に寄与している。
◆ eについて
e × 水銀が水に溶けないのは、極めて高い疎水性相互作用を有するからである。
水銀が水に溶けないのは、水銀原子同士が金属結合という強い結合を形成しているからである。