ヨードチンキの定量 109回薬剤師国家試験問98

109回薬剤師国家試験 問98
日本薬局方ヨードチンキの定量に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選びなさい。

 

109回薬剤師国家試験問98 ヨードチンキの定量

 

1 下線部アの物質を加えるのは、ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの反応を促進させるためである。
2 下線部イの溶液は滴定直前に被滴定液に添加する。
3 下線部ウはヨウ素の色である。
4 本品5 mL を量り、上記に従い、0.1 mol/L チオ硫酸ナトリウム液(ファクター1.000)で滴定したとき、下線部エが23.60 mL とすると、ヨウ素(I)の含量は6.0 w/v%である。
5 空欄オに入れるべき式は(a − b)である。ただし、(2)の反応は次のとおりである。
109回薬剤師国家試験問98 ヨードチンキの定量

トップページへ

 

薬剤師国家試験過去問題 科目別まとめ一覧 へ

 

薬剤師国家試験過去問題集 容量分析・滴定 一覧へ

 

 

109回薬剤師国家試験 問98 解答解説

 

ヨードチンキとは、ヨウ素とヨウ化カリウムのエタノール溶液のことであり、
外用の殺菌消毒剤として用いられる。

 

日本薬局方のヨードチンキの定量は、以下の通り、
(1)でヨウ素を定量し、(2)でヨウ化カリウムを定量する。

 

109回薬剤師国家試験問98 ヨードチンキの定量

 

 

◆ 1について
1 × 下線部アの物質を加えるのは、ヨウ素とチオ硫酸ナトリウムの反応を促進させるためである。

 

(1)の滴定において、ヨウ化カリウムを加えるのは、ヨウ素を水に溶解させるためである。
ヨウ素分子(I2)は、水に溶けにくい。しかし、ヨウ化カリウムなどのIを生成するものを多量に添加し、大過剰のIが存在する状態にすると、水中でI2とIが反応し、I3となり、ヨウ素が水に溶けるようになる。

 

109回薬剤師国家試験問98 ヨードチンキの定量

 

本滴定では、ヨードチンキに水20mLを加えるが、ヨウ化カリウムを加えていないと、ヨウ素が析出してしまう。

 

関連問題
ヨウ素は大過剰のKIが存在すると水溶液中でI3として溶存する? 83回問5e

 

 

◆ 2について
2 × 下線部イの溶液(デンプン試液)は滴定直前に被滴定液に添加する。
→ 〇 デンプン試液は終点直前に被滴定液に添加する。

 

デンプンは、強酸性条件下,または,強塩基性条件下で加水分解されるので、指示薬のデンプン試液は終点直前に被滴定液に添加する。

 

(1)の滴定では、ヨードチンキに含まれるヨウ素(I)を定量する。
ヨードチンキにチオ硫酸ナトリウム液を滴加することにより、
ヨウ素分子(I2)を酸化剤、チオ硫酸イオン(S2O3 2−)を還元剤とする酸化還元反応が進行する。
I2 + 2 S2O3 2− → 2I + S4O6 2−

 

この滴定の終点の検出は、デンプン試液を指示薬とし、ヨウ素とデンプンの包接化合物の有無による溶液の色調変化を利用する。
デンプンは水中でらせん構造をとり、ヨウ素(I2)はデンプンのらせん構造に入り込み、包接化合物を形成する。この包接化合物は電荷移動錯体であり、青紫色を呈する。
滴定操作により、ヨードホルムに含まれるヨウ素(I2)が、チオ硫酸イオンと反応することで消失し、ヨウ素とデンプンの包接化合物が消失すると、溶液が青紫色から無色になる。この時を終点とする。

 

 

◆ 4について
4 〇 本品5 mL を量り、上記に従い、0.1 mol/L チオ硫酸ナトリウム液(ファクター1.000)で滴定したとき、下線部エが23.60 mL とすると、ヨウ素(I)の含量は6.0 w/v%である。

 

(1)の滴定において、
本品5mLの0.1 mol/L チオ硫酸ナトリウム液(ファクター1.000)の消費量が23.60mLである場合、対応量は、
0.1mol/L チオ硫酸ナトリウム液1mL = 12.69 mg I
であることから、本品5mL中のヨウ素(I)の量は、
12.69(mg)×23.60×1.000 ≒ 300(mg)
よって、本品5mLのヨウ素(I)の含量は、
0.3g/5mL = 6.0g/100mL = 6.0 w/v%

 

 

◆ 5について
5 × 空欄オに入れるべき式は(a − b)である。
→ 〇 空欄オに入れるべき式は(a − b/2)である。

 

(2)の滴定は、ヨードチンキに含まれるヨウ化カリウム(KI)の定量である。

 

ヨウ素酸カリウム(KIO3)液の消費量からKIを定量するが、ヨードチンキはI2とKIを含むので、KIO3はI2とKIの両方により消費される。
反応式は下記の通り。

 

2KI + KIO3 + 6HCl → 3ICl + 3KCl + 3H2O
2I2 + KIO3 + 6HCl → 5ICl + KCl + 3H2O

 

よって、KIとの反応で消費したKIO3液の量を求めるには、KIO3液の総消費量から、元々含まれていたI2との反応で消費した分を差し引く必要がある。
元々含まれていたI2との反応で消費したKIO3液の量は、(1)の定量法のチオ硫酸ナトリウム液の消費量から算定する。
この算定は、次の2つの反応式と各標準液の濃度に基づき行う。
2I2 + KIO3 + 6HCl → 5ICl + KCl + 3H2O
I2 + 2Na2S2O3 → 2NaI +  Na2S4O6

 

上記の反応式より、
I2:KIO3=2:1で反応し、
I2:Na2S2O3=1:2で反応する。
チオ硫酸ナトリウム液の濃度は0.1mol/Lに対し、ヨウ素酸カリウム液の濃度は0.05mol/Lである。
よって、I2による消費について、0.05mol/Lヨウ素酸カリウム液1mLは0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液2mLに相当する。

 

以上より、(1)の定量法でI2の滴定に要した0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液の消費量がbmLだとすると、(2)の定量法で元々含まれていたI2との反応で消費した0.05mol/Lヨウ素酸カリウム液の量はb/2 mLと算定される。

 

0.05 mol/L ヨウ素酸カリウム液1mLに対するヨウ化カリウムの対応量は下記の通り。
0.05 mol/L ヨウ素酸カリウム液 1 mL = 16.60mg KI

 

したがって、
(2)の滴定における0.05mol/Lヨウ素酸カリウム液の総消費量がa mLであり、
(1)の滴定における0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液の消費量がb mLである場合、
ヨードチンキ中のヨウ化カリウムの量は次式より求められる。

 

ヨウ化カリウムの量(mg) = 16.60 × (a − b/2)

 

 

◆ 3について
3 〇 下線部ウ(クロロホルム層の赤紫色)はヨウ素の色である。

 

(2)の定量法においては、
ヨードチンキに元々含まれていたヨウ素分子(I2)と、ヨウ化カリウム(KI)にヨウ素酸カリウム(KIO3)を反応させることにより遊離したヨウ素分子(I2)が、クロロホルム層に溶解することにより、赤紫色を呈する。

 

ヨウ化カリウム(KI)とヨウ素酸カリウム(KIO3)の反応の詳細については、下記のリンク先を参照
ヨウ素酸塩滴定によるヨウ化カリウムの定量 85回問29

 

 

★ 他サイトさんの解説リンク
109回問98(e-RECさん)

トップへ戻る