フォルハルト法の逆滴定 クロロブタノールの定量法 92回薬剤師国家試験問32
92回薬剤師国家試験 問32
日本薬局方クロロブタノール(C4H7Cl3O: 177.46)の定量法に関する記述のうち、正しいものはどれか。
本品約0.1 gを精密に量り、200 mLの三角フラスコに入れ、エタノール(95) 10 mLに溶かし、
水酸化ナトリウム試液10 mLを加え、還流冷却器を付けて10分間煮沸する。
冷後、希硝酸40 mL及び正確に0.1 mol/L硝酸銀液25 mLを加え、よく振り混ぜ、ニトロベンゼン3 mLを加え、沈殿が固まるまで激しく振り混ぜた後、過量の硝酸銀を0.1 mol/Lチオシアン酸アンモニウム液で滴定する(指示薬:硫酸アンモニウム鉄(III)試液2 mL)。同様の方法で空試験を行う。
a 下線部の反応により、塩素(Cl2)が生成する。
b ニトロベンゼンを加えるのは、硝酸銀との反応により生成した沈殿とチオシアン酸アンモニウムとの反応を防ぐためである。
c 空試験の方が、本試験よりチオシアン酸アンモニウム液の滴加量は少ない。
d 0.1 mol/Lの硝酸銀液1 mLはクロロブタノールの5.915 mgに相当する。
92回薬剤師国家試験 問32 解答解説
本問の定量法は、ハロゲン化物イオンやシアン化物イオンの定量について、
難溶性塩の沈殿平衡を定量に利用する沈殿滴定である。
沈殿滴定のうち、本問のように銀イオンをチオシアン酸塩液で滴定する方法(指示薬:硫酸アンモニウム鉄(III))をフォルハルト法(Volhard法)と呼ぶ。
◆ aについて
a × 下線部の反応により、塩素(Cl2)が生成する。
→ 〇 下線部の反応により、塩化物イオン(Cl-)が生成する。
クロロブタノールをアルカリ性で加熱すると、
分解して塩化物イオン(Cl-)が生成する。
生成した塩化物イオンに対して過剰の一定量の硝酸銀液を加え、難溶性塩のAgClをとし、
過量の未反応のAg+をチオシアン酸アンモニウム液(NH4SCN)で滴定する。
よって、本定量法はフォルハルト法の逆滴定である。
終点では、指示薬の硫酸アンモニウム鉄(III)由来のFe3+がSCN−と反応して、
チオシアン酸鉄(III)[Fe(SCN)3]の赤色錯体を生じる。
◆ bについて
b 〇 ニトロベンゼンを加えるのは、硝酸銀との反応により生成した沈殿とチオシアン酸アンモニウムとの反応を防ぐためである。
Ag+をチオシアン酸アンモニウムで滴定する際、
生成したAgClの沈殿にチオシアン酸イオン(SCN−)が反応することがある。
ニトロベンゼンを加えておくと、ニトロベンゼンがAgCl沈殿を包んで保護し、
AgClとSCN−の反応を防止することができる。
◆ cについて
c × 空試験の方が、本試験よりチオシアン酸アンモニウム液の滴加量は少ない。
→ 〇 空試験の方が、本試験よりチオシアン酸アンモニウム液の滴加量は多い。
空試験ではクロロブタノール由来の塩化物イオン(Cl-)が無いことから、
本試験に比べて未反応のAg+が多いので、
その滴定に用いるチオシアン酸アンモニウム液の滴加量も本試験より多くなる。
◆ dについて
d 〇 0.1 mol/Lの硝酸銀液1 mLはクロロブタノールの5.915 mgに相当する。
0.1mol/L硝酸銀液1mL = 5.915 mg クロロブタノール
下記の通りクロロブタノールと硝酸銀は1:3のモル比で対応する。
0.1 mol/Lの硝酸銀液1 mLに含まれる硝酸銀は0.1mmolである。
0.1mmolの硝酸銀は1/3×0.1mmolのクロロブタノールに対応する。
本問ではクロロブタノールの分子量を177.46とするので、
1/3×0.1mmolのクロロブタノールの質量は、
0.1mmol×177.46 (g/mol)= 5.915mg
したがって、
0.1 mol/Lの硝酸銀液1mLに対するクロロブタノールの対応量は下記の通り。
0.1mol/L硝酸銀液1mL = 5.915 mg クロロブタノール
★ 別解:式による対応量の計算
対応量(mg)は下記の計算式を用いても計算できる。
本問では、クロロブタノールと硝酸銀の反応について、
クロロブタノール(目的成分)の化学当量は1、
硝酸銀(標準液の成分)の化学当量は3である。
硝酸銀標準液の濃度は0.1mol/L、
クロロブタノールの分子量は177.46であるので、
対応量(mg)は式を用いて下記のように計算できる。