89回薬剤師国家試験問30 日本薬局方における生理食塩液の定量法
89回薬剤師国家試験 問30
日本薬局方における生理食塩液の定量法に関する記述の正誤について、正しいものはどれか。
「本品20 mLを正確に量り、水30 mLを加え、強く振り混ぜながら0.1 mol/L硝酸銀液で滴定する(指示薬:フルオレセインナトリウム試液3滴)。」
a 原理的には、指示薬としてクロム酸カリウム試液を用いる滴定も使用可能である。
b フルオレセインナトリウムのような吸着指示薬を用いる滴定法は、Volhard法とよばれる。
c フルオレセインは弱い有機酸であるが、滴定時には陰イオン型として存在する。
d フルオレセインが滴定終点で呈する色は、緑色である。
89回薬剤師国家試験 問30 解答解説
◆ bについて
b × フルオレセインナトリウムのような吸着指示薬を用いる滴定法は、Volhard法とよばれる。
→ 〇 フルオレセインナトリウムのような吸着指示薬を用いる滴定法は、ファヤンス法(Fajans法)とよばれる。
本問の定量法は、
生理食塩液中の塩化ナトリウムに由来する塩化物イオンを滴定するにあたり、
Ag+とCl−からAgClの難溶性塩を生成する反応を利用し、
指示薬として吸着指示薬であるフルオレセインナトリウムを用いる沈殿滴定である。
本問の定量法のように、
指示薬として吸着指示薬を用いる沈殿滴定法を、
ファヤンス法(Fajans法)と呼ぶ。
◆ c,dについて
c 〇 フルオレセインは弱い有機酸であるが、滴定時には陰イオン型として存在する。
d × フルオレセインが滴定終点で呈する色は、緑色である。
→ 〇 フルオレセインが滴定終点で呈する色は、紅色である。
本問の定量法では、
生理食塩液中のNaClに由来するCl−を滴定するにあたり、
硝酸銀液を加え、Ag+とCl−が反応し、
AgClの難溶性塩を生成する反応を利用する。
吸着指示薬のフルオレセインは、
構造中に酸性解離基を有する弱酸性物質であり、
中性から塩基性条件下では、
酸性解離基からプロトンが解離した陰イオン型(Flu−)として存在する。
終点前の未反応のCl−が存在する間は、
AgClのコロイド粒子にCl−が吸着し、
コロイド表面は負に帯電する。
フルオレセインの陰イオン型(Flu−)は、
Cl−に囲まれて負に帯電したAgClのコロイド粒子には吸着できないので、
終点前の未反応のCl−が存在する間は、
溶液の色は遊離のFlu−の色の黄緑色となる。
滴定操作を続け、未反応のCl−が無くなり、
Ag+が過剰になると、
AgClのコロイド粒子の表面にAg+が吸着し、
コロイド表面は正に帯電する。
そこに吸着指示薬のFlu−が吸着すると、
Flu−は吸着型の紅色を呈するようになる。
ここを滴定終点とする。
◆ aについて
a 〇 原理的には、指示薬としてクロム酸カリウム試液を用いる滴定も使用可能である。
指示薬としてクロム酸カリウム(K2CrO4)を用いる沈殿滴定をモール法と呼ぶ。
遊離のCl−が全てAg+と反応し、
Ag+が過剰になると、
Ag+と指示薬のK2CrO4由来のCrO4 2−が反応して
Ag2CrO4の赤色沈殿を生じるので、この時を終点とする。
しかし、Cr6+に毒性があるため、
日本薬局方においてモール法は用いられなくなり、
代わりに吸着指示薬を用いるファヤンス法が採用されている。