ハロゲン化アルキルの反応 111回薬剤師国家試験問103の解説
111回薬剤師国家試験 問103
次の反応式のうち、実際に反応が進行し、
主生成物の構造が正しく示されているのはどれか。
1つ選びなさい。ただし、各反応はそれぞれ適切な溶媒を用いて行ったものとする。

111回薬剤師国家試験 問103 解答解説
選択肢のうち、実際に反応が進行し、
主生成物の構造が正しく示されているのは、
選択肢2です。

本問では、ハロゲン化アルキルの構造と試薬の性質から、
SN1反応、SN2反応、E1反応、E2反応のどれが優先するかを判断します。
問題では、実際に反応が進行するだけでなく、
示された生成物が主生成物として正しいことが必要です。
選択肢2では、
第二級臭化アルキルにヨウ化物イオン I−を作用させています。
選択肢2の基質は、第二級臭化アルキルですが、
臭素が結合している炭素の立体障害が比較的小さいです。
そして、試薬のI−は、
・求核性が高い
・塩基性は比較的弱い
という性質をもちます。
この場合は主にSN2反応が進行し、
臭素とヨウ素が置換したものが生成します。
SN2反応の生成物の立体について、
反応中心炭素が不斉中心だった場合、
SN2反応の主生成物は立体が反転したものになります。
これをワルデン反転と呼びます。
SN2反応でワルデン反転が起こる理由は、
求核剤が脱離基のいない側から反応中心炭素に対して
求核攻撃を行い(これを背面攻撃と言います)、
脱離基が結合していた側と逆側に求核剤が付加するためです。
選択肢2では、生成物について、
臭素とヨウ素が置換し、
かつ、反応中心炭素の立体が反転しているため、
適切です。

以下では他の選択肢の選択肢について解説します。
選択肢1

これは誤りです。
正しくは、生成物がラセミ体となるように書かれているべきです。
選択肢1では、
第三級臭化アルキルに水を作用させています。
第三級ハロゲン化アルキルは、
ハロゲンが脱離すると安定な第三級カルボカチオンを形成します。
そして、試薬となる水は弱い求核剤・弱い塩基です。
この場合は主にSN1反応が進行し、
ハロゲンとOHが置換したアルコールが生成します。
SN1反応の生成物の立体について、
反応中心炭素が不斉炭素だった場合、
SN1反応の生成物はラセミ体となります。
SN1反応の生成物がラセミ体となる理由
SN1反応では、中間体のカルボカチオンは平面構造をとります。
そのため、試薬である水はカルボカチオンの表裏の両側から攻撃でき、
生成物は原則としてラセミ体になります。
選択肢1では、生成物について、
単一の立体異性体だけが生成するように書かれているため、不適切です。
正しくは、下に示すようにラセミ体が生成するように書かれているべきです。

選択肢3

選択肢3の基質は、第三級臭化アルキルです。
試薬のメトキシドイオン CH3O−は、強い求核剤であると同時に、強塩基でもあります。
第三級ハロゲン化アルキルに強塩基を反応させると、
主にE2反応が進行します。
SN2反応が起こりにくい理由
第三級炭素は三つのアルキル基に囲まれているため、
反応中心炭素に対して求核剤が背面から攻撃するSN2反応は
立体障害によってほぼ進行できません。
SN1反応が起こりにくい理由
基質は第三級ハロゲン化アルキルなので、
ハロゲンが脱離して安定な第三級カルボカチオン中間体を経由するSN1反応自体は可能です。
しかし、試薬のメトキシドイオンは強塩基です。
この場合、カルボカチオンの生成を待つよりも、
強塩基が水素をプロトンとして引き抜くE2反応が速く進みます。
したがって、
選択肢3の反応物では、主にE2反応が進行し、
基質の臭素が結合する炭素に隣接する炭素に結合する水素(β水素)が、
メトキシドイオン CH3O−によってプロトンとして引き抜かれると同時に、
臭素が脱離し、アルケンが生成します。

選択肢4

これは誤りです。
選択肢4では、第一級臭化アルキルにメタノール CH3OHを作用させ、
求核置換反応が起こったように書かれています。
SN2反応が起こりにくい理由
第一級ハロゲン化アルキルは、反応中心炭素の立体障害が小さいため、
通常、SN2反応を受けやすい基質です。
しかし、試薬のメタノールは弱い求核剤であるため、SN2反応は起こりにくいです。
SN1反応が起こりにくい理由
第一級ハロゲン化アルキルでSN1反応が起こるとすると、
ハロゲンが脱離して第一級カルボカチオン中間体を経由することになります。
しかし、第一級カルボカチオンは不安定なので、SN1反応は進行しにくいです。
E1反応も第一級カルボカチオン中間体を経由することになるので起こりにくいです。
試薬のメタノールは弱塩基であり、
基質からプロトンを引き抜くことが起こりにくいため、
E2反応も起こりにくいです。
選択肢5

これは誤りです。
選択肢5では、
第二級臭化アルキルにtert-ブトキシドイオン (CH3)3CO−を作用させると、
求核置換反応が起こるように書かれています。
試薬のtert-ブトキシドイオンは、
・強塩基である
・立体的にかさ高く、求核攻撃を行いにくい
という特徴をもちます。
したがって、
第二級ハロゲン化アルキルに対してtert-ブトキシドイオンを反応させると、
SN2反応よりも、β水素を引き抜くE2反応が優先します。
