アブラキサン点滴静注用の製剤学的特徴 106回薬剤師国家試験問276,277

106回薬剤師国家試験 問276?277
52歳女性。約1 年前に乳癌(ホルモン受容体陰性、HER2 陰性)と診断され、術後化学療法としてAC(ドキソルビシン+ シクロホスファミド)療法を受けたが、最近、再発が認められた。そこで二次治療として、アブラキサン点滴静注用(注)による化学療法を実施することになった。
(注:パクリタキセル注射剤(アルブミン懸濁型))

 

問276(薬剤)
アブラキサン点滴静注用の製剤学的特徴に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選びなさい。
1 懸濁化剤として、メチルセルロースが添加されている。
2 パクリタキセルを人血清アルブミンに結合させてナノ粒子化した製剤である。
3 保存剤が含まれるため、懸濁液は冷所で約1 週間保存できる。
4 点滴静注後、血液中で微粒子は崩壊することなく安定に存在し、パクリタキセルが腫瘍に効率よく集積する。
5 用時懸濁して用いる凍結乾燥注射剤である。

 

問277(実務)
本治療に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選びなさい。
1 Dose limiting toxicity として骨髄抑制があり、好中球数及び血小板数の変動に十分留意する。
2 アルコール過敏症の患者には禁忌であり、事前に患者から聞き取りを行う必要がある。
3 末梢神経障害でしびれなどが現れたときには、減量や休薬が必要とされる。
4 パクリタキセルの他の製剤(ポリオキシエチレンヒマシ油含有製剤)に比べ過敏症が発現しにくいので、末梢より5分間かけて静注する。
5 沈殿物が認められることがあるので、投与時にはインラインフィルターを使用する。

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106回薬剤師国家試験 問276(薬剤) 解答解説

 

◆ 2,5について
2 〇 パクリタキセルを人血清アルブミンに結合させてナノ粒子化した製剤である。

 

5 〇 用時懸濁して用いる凍結乾燥注射剤である。

 

アブラキサンは、水に極めて難溶性のパクリタキセルを人血清アルブミンに結合させてナノ粒子化した製剤である。これを凍結乾燥製剤とすることにより、従来のパクリタキセル製剤の溶媒(ポリオキシエチレンヒマシ油及び無水エタノール)を使用せず、用時に生理食塩液で懸濁し、懸濁液として静脈内投与することが可能となった。

 

 

◆ 4について
4 × 点滴静注後、血液中で微粒子は崩壊することなく安定に存在し、パクリタキセルが腫瘍に効率よく集積する。

 

アブラキサンの懸濁粒子の特徴として、直径130nmのナノ粒子であること、および、静脈内投与後はすぐに崩壊することが挙げられる。
そのため、アブラキサンは生理食塩液で懸濁した懸濁液として静脈内投与することが可能となっている。

 

 

◆ 1について
1 × 懸濁化剤として、メチルセルロースが添加されている。

 

メチルセルロースは、水に溶かすと粘度を上げる効果(増粘効果)があり、懸濁化剤として用いられることはあるが、静脈内投与する注射液の懸濁化剤としては用いられない。

 

 

◆ 3について
3 × 保存剤が含まれるため、懸濁液は冷所で約1 週間保存できる。

 

アブラキサンは凍結乾燥注射剤なので保存剤(防腐剤)は含まれない。
アブラキサンの懸濁液を調整後、すぐに投与しない時は、バイアルを箱に戻し、冷蔵庫(2〜8℃)に遮光保存して8時間以内に使用する。
ただし、投与のためにバイアルから空の点滴バッグ中に移し替えた懸濁液は、速やかに使用しなければならない。

 

 

106回薬剤師国家試験 問277(実務) 解答解説

 

◆ 1について
1 〇 Dose limiting toxicity として骨髄抑制があり、好中球数及び血小板数の変動に十分留意する。

 

Dose limiting toxicity (用量制限毒性:DLT)とは、
投与量を制限せざるを得なくなる毒性を指す。

 

アブラキサンのDLTは骨髄抑制であり、
投与の際は好中球数及び血小板数の変動に十分留意する。

 

 

◆ 3について
3 〇 末梢神経障害でしびれなどが現れたときには、減量や休薬が必要とされる。

 

パクリタキセルは副作用として末梢神経障害が高頻度に起こる。
アブラキサンでは、高度(Grade 3)な末梢神経障害が発現した場合には、軽快又は回復(Grade 2以下)するまで投与を延期し、再開する際は投与量を減量することとされている。

 

また、パクリタキセルは副作用として関節痛及び筋肉痛が高頻度に起こるので、観察を十分に行い、症状があらわれた場合には鎮痛剤投与等の適切な処置を行うこととされている。

 

 

◆ 2,4について
2 × アルコール過敏症の患者には禁忌であり、事前に患者から聞き取りを行う必要がある。
→ 〇 アブラキサンはアルコール過敏症の患者に投与可能である。

 

4 × パクリタキセルの他の製剤(ポリオキシエチレンヒマシ油含有製剤)に比べ過敏症が発現しにくいので、末梢より5分間かけて静注する。
→ 〇 アブラキサンは30分間かけて静注する。

 

アブラキサンのインタビューフォームに以下の記載がある。
「本剤は、水に極めて難溶性のパクリタキセルを人血清アルブミンに結合させ、凍結乾燥製剤化を実現したことにより、従来のパクリタキセル製剤の溶媒(ポリオキシエチレンヒマシ油及び無水エタノール)を使用せず、生理食塩液で懸濁し投与することが可能となった。その結果、過敏症予防のためのステロイド剤や抗ヒスタミン剤の前投薬が必須ではなくなり、点滴時間の短縮、アルコール過敏症患者への投与が可能になる等の利便性も確認された。」

 

上記のことに関して、アブラキサンの特徴として、以下のことが挙げられる。
・従来のパクリタキセル注射液(タキソール注)では過敏症予防のためのステロイド剤や抗ヒスタミン剤の前投薬が必須だったが、アブラキサンでは必須でなくなっている。

 

・アブラキサンの点滴静注時間は 30 分であり、従来のパクリタキセル注射液(タキソール注)よりも短い。

 

・アルコールを使用していないことから、アルコール過敏症患者への投与が可能である。

 

・界面活性剤を使用していないことから、可塑剤としてフタル酸ジ(-2-エチルヘキシル)](DEHP)を含有するポリ塩化ビニル製の点滴セットの使用が可能である。

 

 

◆ 5について
5 × 沈殿物が認められることがあるので、投与時にはインラインフィルターを使用する。

 

アルブミン製剤は分子量が大きいため、インラインフィルターを使用すると目詰まりを起こす恐れがある。
よって、一般に、アルブミン製剤の投与時にはインラインフィルターを使用しない。

 

 

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